世の中には朝日と共に目覚めるような朝型の人もいれば、深夜になるまで眠らないような夜型の人もいます。同じ動物でありながら朝型と夜型の違いが存在する仕組みについて、アメリカ国立衛生研究所(NIH)が資金提供を行ったアメリカのカリフォルニア大学やシンガポールのデューク・シンガポール国立大学メディカルスクールの研究チームが、新たな手がかりを発見したとのことです。
Casein kinase 1 dynamics underlie substrate selectivity and the PER2 circadian phosphoswitch. - PubMed - NCBI
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32043967
Early Riser or Night Owl? New Study May Help to Explain the Difference – NIH Director's Blog
https://directorsblog.nih.gov/2020/02/25/early-riser-or-night-owl-new-study-may-help-to-explain-the-difference/
生物の細胞や組織の内部に見られる概日リズム(体内時計)は、多くの遺伝子やタンパク質の複雑な相互作用によって構成されています。たとえば、DNAの情報を基にタンパク質が合成されるサイクルは、タンパク質の量に応じて抑制されるというネガティブフィードバックループを形成しており、24時間の周期を生物の体内で生み出しています。
また、タンパク質が単体でリン酸化することによる24時間周期の存在も指摘されており、さまざまな機構が組み合わさって概日リズムが形成されているとのこと。特に生物の概日リズムに深く関わっている遺伝子は、時計遺伝子と呼ばれています。
以前から、時計遺伝子の一つであるPeriod遺伝子が作るPerタンパク質の量が24時間周期で上昇・下降することによって、生物の概日リズムが調整されていることが知られてきました。また、概日リズムに関わるカゼインキナーゼ1という酵素グループの内、Casein kinase 1 isoform epsilon(CK1ε)およびCSNK1D(CK1δ)は、Perタンパク質の安定や分解に関与しており、生物の概日リズムを生み出す上で重要な役割を果たしています。
そこで、研究チームは「なぜ一部の人間や生物は他の個体より概日リズムが短くなってしまうのか?」という疑問の手がかりを見つけるため、ハエやハムスター、ヒトに見られるカゼインキナーゼ1を構成するタンパク質の変異について、生化学的な分析を行いました。
分析の結果、研究チームはカゼインキナーゼ1を構成する一部のタンパク質が、Perタンパク質の発現レベルを保つ上で「スイッチ」として機能していることを発見。カゼインキナーゼ1を構成するタンパク質が正常に機能している場合、Perタンパク質は適切な安定性が保たれ、ほぼ完璧な24時間周期の概日リズムが生成されます。しかし、このタンパク質が正常に機能していない場合、Perタンパク質の分解周期が24時間よりも早くなったり短くなったりしてしまい、概日リズムが乱れてしまうとのこと。この概日リズムの乱れが異常なほど、朝型人間や夜型人間を生み出すこととなるそうです。
Perタンパク質とカゼインキナーゼ1の相互作用に起きる異常は、家族性睡眠相前進症候群といった睡眠障害に関連していることがわかっています。今回の研究結果から、カゼインキナーゼ1がPerタンパク質を通常よりも早く分解してしまうのを防ぐことで、家族性睡眠相前進症候群の治療に役立つ可能性があることが示唆されたとのこと。
また、カゼインキナーゼ1が研究者にとって魅力的な点として、ヒトやハムスターに見られるカゼインキナーゼ1とほぼ同じものが、単細胞の緑藻にも見られるという点が挙げられます。非常に原始的な生物にもカゼインキナーゼ1が備わっていることは、地球上の生物が同じ24時間周期の環境で進化してきたことを考えると、理にかなっているとNIHは指摘しました。
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