“キンクミ”と聞いて、ピンと来る人はいるだろうか。女子プロゴルファーの金田久美子だ。8歳で「世界ジュニア選手権」を制してタイガー・ウッズの記録に並び、“天才少女”と注目を浴びたプレーヤーでもある。
ギャル風のばっちりメイクに、おしゃれなウェアが人目を惹き、“ギャルファー”と呼ばれるようになった。最近ではインスタグラムのフォロワー数が10万人を超えるなど、ファンも増えてきている。
一方で、厳しい現実に直面している。2011年の初優勝以来、目立った結果を残せずにいる。なぜ、ジュニア時代の“天才少女”の輝きは消えたのか。勝てない中で、どうゴルフと向き合っているのか。“ギャルファー”の素顔と本音に迫った。
“ギャルファー”はマスコミがつけた?
――国内女子ツアーは中止が続いています。いまどのように過ごしていますか?
ゴルフ場も開いているので、練習は続けています。試合が中止になっているからといって、焦りはないんです。意外と充実していますし、この状況をうまく過ごせれば、いい結果が出ると信じてやっています。
――“ギャルファー”と言われていますが、昨年30歳を迎えましたね。
30歳だからもうギャルじゃないですよね(笑)。でも、“キンクミ”のキャッチフレーズはうれしい。なんでキンクミなのと昔は思っていたんですよ。正しく読むならカネクミだし(笑)。金田久美子よりキンクミのほうが浸透しているので、なんかキムタクみたいで悪い気はしませんよ。
――今ではそれも好きになったということですね。
だから、マスコミの人に感謝しています。“自称ギャルファー”と書かれているのですが、マスコミの人がギャルファーとつけたんじゃないかな? 自分では言ってないですもん。本当に一言も言ってないです。自分が言ったみたいで、ずっと恥ずかしい思いはありました。
――20代と今では心境の変化はあったりしますか?
正直、年齢を重ねていくことに焦りはあります。絶対に子どもだけは欲しいんですよ。小さいころから子どもが大好きでしたし、かわいくてしょうがない。純粋だし、本当に素直。でも、子どもを産むとなったら、ゴルフはやめなきゃダメだと思います。妊婦期間を合わせたら、1年ぐらいできないんですよ。
――出産したあとに、ツアーに復帰するという考えはありませんか?
絶対に戻りません。いまですら下手なのに、その期間を経て、またやろうと思ったら絶対に無理ですよ。産んだら子どもの面倒をちゃんと見たいですから。でも5年後に言っていることが変わるかもしれないですね。子どもの前で優勝したいと言っているかも(笑)。本当は30歳ぐらいには子どもを産みたいと思っていたのに結局、自分のゴルフに満足がいかないから、いまも続けている状態です。3歳からゴルフをしているので、もう27年ですよ。ちょっとヤバいですよね(笑)。
「普通の人に見て欲しかった」
――8歳の時に優勝した「世界ジュニア選手権」で、タイガー・ウッズの記録と並んで“天才少女”と呼ばれました。今も記憶にありますか?
当時は“天才少女”と言われても、気にもしなかったですね。でも取材を受けるのは、つらかったです。ただの女の子に見てほしかったというか……。ゴルフはおじさんのスポーツだったから、やっていることも隠していたし、ゴルフをしていることが本当に恥ずかしかったんです。こんなにゴルフをやっていてなんですが、当時はダサいと思っていましたし、格好も地味だったじゃないですか。いまはゴルフが自分の特技で、それが仕事になっていることは良かったなと思いますが、当時はコンプレックスと言ったらおかしいですけれども、普通の人に見てほしかったです。
――それでもゴルフをやめようと思わなかった?
途中でゴルフをやめようと考えたこともありました。中学3年のときに真剣にやめようと思ったことがあって、家出したんです。そのあと久しぶりに家に帰って、ゴルフをやめると言おうとした前日にパパが倒れたんです。お兄ちゃんから電話がかかってきて、パパが倒れたって。最初は冗談だと思ったら、本当でした。病院に行ったら、パパは起きるのもやっとで、しゃべられなかったけれども、久美の顔を見た瞬間、「練習しているか」と言われたんですよ。
――お父さんはゴルフを続けているのかが、一番心配だったんですね。
さすがに「練習しているか」の一言にはビックリしましたよ。でも、やめなくてよかった。だって、ゴルフがなかったら何をやってるんだろという感じですもん。このままだとパパが死んじゃうと思って、それから練習をがんばりました。アマチュアのころはそんなに練習しなくても結果が出たんです。生意気なことを言うと、練習してうまくなって、有名になったら、遊べないって思っていたくらいなんで……。いま思えばこんなことは言えないですが、子どものころの私はそれくらい遊びたかったんでしょうね(笑)。
インスタに練習風景を載せたらアンチが消えた?
2009年、“天才少女”は鳴り物入りでプロの世界に飛び込んだ。「プロになってもすぐに勝てる」という自信があったというが、困難の連続だった。
ルーキーイヤーは出場30試合中、予選落ちが14回。ジュニア時代の自信は消え去り、プロの世界で初めての挫折を味わった。
そうした苦難を乗り越えて、2011年の「フジサンケイレディスクラシック」でツアー初優勝。父・弘吉さんの前で涙を流したシーンは多くの人の胸を打った。
――プロ入りしてから初優勝まではかなり苦労したと思います。
プロになって、練習を急にやるようになったら、逆に成績が出なくなったんです。感覚だけでやっていたのを理論で考えてみたりして、つらい時期でした。そのころに野球選手の斉藤和巳さん(元ソフトバンク)に「結果が出なくても、その努力は絶対に次に生きる」って言われたんです。「ゴルフを離れて違う仕事をするときにでも、頑張ったことを覚えていればそこで役立つから、ゴルフだけの努力じゃないよ」と言われたのがすごく衝撃でした。試合で結果が出ていないと、「練習しないで遊んでいるんだろう」とか、初めて会う普通の人からも言われました。
――“見た目”で判断する人も少なからずいると?
世の中にはいろんな人がいますから、私のことを好きな人もいれば、嫌いな人がいるのは当然です。ただ、練習は見せるものじゃないと思っています。昔はどう見られてもいいやとか、何を言われてもいいっていうスタンスだったんですけれど、ここ2~3年でそれもなくなってきました。大人になるにつれて、まわりが見えてきたときに応援してくれる人に申し訳ないと思って。昔みたいなイケイケではなくなりました。大人になりましたよ(笑)。
――インスタのフォロワーは10万人を超えて、積極的な情報発信もされていますね。
フォロワーが増えてうれしいです。昔は「おい、練習しろよ」とか書かれたりしたのですが、最近はアンチが消えました(笑)。たぶんトレーニング風景を載せ出したからと思うんです。まだ、私のことを嫌いな人が減ったわけじゃないけど、あまり言われなくなったじゃん、って思います。SNSをやるのは、若いゴルファーが増えてほしいという気持ちもあります。ゴルフを知らない人でも、「久美のことに興味を持ってくれた」というのを聞いたりすると励みになります。
「まだやり切っていない」
“キンクミ”は崖っぷちに立たされている。今季はレギュラーツアーのシード権を喪失したため、下部のステップ・アップ・ツアーが主戦場だ。
主催者推薦(年間最大8試合)でレギュラーツアーに出場する道はあるが、シード復帰のためには一発で優勝するか、コツコツと結果を残し、賞金を積み上げてランキングを上げていくしかない。
また、新型コロナウイルスの影響でレギュラーツアーは大会中止が相次ぎ、今後の開催も先行きは不透明のまま。そこで日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は、2020年と21年シーズンを統合して1シーズンにすると発表。
つまり、シーズンがまだ開幕していないこともあり、金田にもシード復帰の可能は残されているというわけだ。
――今年は下部ツアーが主戦場になりますが、ゴルフをやめようと思ったりしましたか?
去年のQT(予選会)に失敗してから、みんなに「やめるの?」と言われました。でも、やめません。いまやめたら後悔しかないし、自分に負けた感じですから。ここまでやったという気持ちが最後にないとやめられないと思う。一番は結果だと思いますが、最後はやり切った感ですよね。やっぱり自分の中で、まだできるんじゃないかという気持ちがどこかにあります。
――最後に。やはり目標は優勝ですか?
やっぱり優勝したい。いまは勝ちたいと言える土俵に立ちたいですね。これは目標なのかな。やめるまでに、もう一勝はしたいです。一番は満足した結果を残してから、子どもを産みたいです。
■金田久美子(かねだ・くみこ)
1989年8月14日生まれ(30歳)。愛知県名古屋市出身。「キンクミ」の愛称で知られる女子プロゴルファー。3歳からゴルフを始め、8歳の時には「世界ジュニア選手権(10歳以下の部)」で優勝。タイガー・ウッズに並ぶ記録を作り、天才少女と一躍注目された。2002年の「リゾートトラストレディス」にアマチュアとして出場すると、12歳9ヵ月での最年少予選通過記録を樹立。2008年、プロテストに初挑戦するも1打足りず不合格。同年の最終予選会でトップ通過を果たし、ツアー参戦資格を得る。プロ3年目の2011年の「フジサンケイレディスクラシック」で初優勝。「ゴルファー」と「ギャル」を合わせて「ギャルファー」とも呼ばれた彼女も30歳に。2020年シーズン開幕に向けて調整を重ねている。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】
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June 03, 2020 at 08:00AM
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