前田顕蔵ヘッドコーチ体制で2年目を迎えた秋田ノーザンハピネッツは、開幕から4連勝と好スタートを切った。チームの推進力となっているのは古川孝敏だ。昨シーズンは序盤にケガがあり、復帰後も波に乗れないまま新型コロナウイルスの影響で中断に。不完全燃焼の思いを抱えて長いオフを過ごした彼は、コート上でイキイキと躍動している。秋田が掲げるオフェンスのコンセプトは『日本人選手が点を取るバスケ』。シュート試投数が増えた古川は、それを体現する存在となっている。勝ってもなおチームの課題に目を向けるが、それと同時に「やっていてすごく楽しい」という言葉を連発するインタビューとなった。
「勝ったから良かった、は僕らの目標ではない」
──勝たなければいけないチームが相手でしたが、4連勝と結果を出して好スタートを切りました。手応えはいかがですか?
勝たないといけない相手という言い方はともかく、僕らは4連勝するつもりで開幕を迎えて、まず4連勝できたのはすごく良かったと思います。それでも始まったばかりなので満足しているわけではなくて。4つ勝ったのは良いけど、そこからどう繋げていけるか。あらためて自分たちの良くない部分を見直すことのできる4試合でもありました。
良くない部分を細かく言い始めてしまうとキリがないんですけど、土曜は結構良い試合ができても日曜にタフな展開になってしまうことが気になっていて、2日目の試合で相手も対応してくる中で自分たちがどう戦っていくか。それをしっかりコート上で発揮できるかが重要なポイントです。本来あってはならないパフォーマンスのムラがここ4試合でもあります。もちろん良い時と悪い時はあるのですが、その波を小さくして、そこで我慢して戦って勝つこと。技術面も精神面も、準備の部分も大事です。
──信州ブレイブウォリアーズとの開幕節で、その傾向が強かったですね。初戦は圧勝、第2戦で相手にアジャストされました。
展開的には明らかに信州に持っていかれて、やっちゃいけない試合展開でした。でも、相手にやられたというよりも「何やってんの自分たち、違うでしょ」という気持ちが大きかったです。結果的にゲームの中で何とか修正して引っくり返せたことは、自信になると言えばなるんですけど、これが本当に強いチームかと言えば違うと思うんです。相手にアジャストされたと言っても、僕らが攻略された、完全に裏をかかれた、でもなかった気がします。自分たち次第のところが大きいです。
スカウティングの話も入ってくるんですけど、オフェンスにしろディフェンスにしろ「自分たちがやりたいことをやれていますか?」が第一に来ますね。やった上でやられているんじゃなくて、まず自分たちがやれていない。その遂行力をコート上でどう出していくか。これは昨シーズンからの課題ですけど、全員で状況を把握して共通認識として持って戦うことがまだ上手くできていないので。そういう意味で相手がどうこう以前の問題です。
──見ている人はハラハラした末に勝って、面白い試合だったと思います。ですが選手は勝っても満足できませんでしたね。
まあ満足はしないですね。前日にしっかり勝って、次の日も相手にチャンスを与えないぐらいやらないといけない。強いチームって定義がはっきりしないですけど、そこで隙を与えないまま勝ち切るチームだと思います。「勢いがある日は勝てます」ってチームは強くはないですよね。結果は大事なので「勝ったから良かった」という気持ちは多少はありますけど、そこは僕らの目標ではないので、納得できる試合ではなかったのが正直なところです。
目指すものはあっても完璧はあり得ないです。そこが難しいところですけど、僕らはしっかり求めていかないといけない。ただ前と比べて何も変わっていないわけではなく、みんなでコミュニケーションを取りながら少しずつ変わってきています。だから話が矛盾している部分があるかもしれませんが、手応えまではいかなくても見えてくるものはあります。
「チャンスがあれば全部自分で攻めよう、ぐらいの気持ち」
──苦戦した信州との第2戦で古川選手は20得点を挙げました。ここまでまだ4試合ですが平均14.0得点を記録しています。今シーズンは前田顕蔵ヘッドコーチが「日本人選手が点を取るバスケをやる」と言っていますが、それは古川選手の得点に表れています。
僕の個人的な部分を比較すれば、昨シーズンがまず最悪だったので。僕が試合に出れないことも多かったですし、チームは外国籍選手のところで点が取れるというのもありました。その中で僕自身も数字を残すことが求められていたのに、全然できませんでした。今シーズンはそこにこだわっていきたくて、あまりにも意識しすぎるとおかしくなるんですけど、昨シーズンよりは意識してやっています。チャンスがあれば全部自分で攻めよう、ぐらいの気持ちなので。
──アテンプトの増加はチームのオフェンスがそうデザインされているのか、それとも自分で打つという気持ちの表れですか?
どっちもです。僕の気持ちももちろんあるんですけど、チームとしてオフェンスを作る中でみんなが僕をすごく見てくれている部分もあります。僕としても良い状態で臨めるシチュエーションを作ってもらえているので、やりやすいです。あまり意識していなかったですけど、言われてみれば確かにアテンプトはめちゃめちゃ多くなっていますね(笑)。
──その中でもタフショットが少ない、強引に打ちに行ってる感じはないのが印象的です。
ここ4試合でタフショットは1本も打っていないですね。相手と駆け引きする中でいろいろやっている部分はあるので、そこで失敗することもありましたけど、タフショットを選択した記憶はないです。個人的には打てるから打つ、それだけですね。あとは、僕が打ち切らないと話にならない。あまりにもフリーになるのを待ちすぎるのではなく、チャンスがあれば打っているつもりです。
信州との第2戦でも、見てて感じてもらえたかもしれませんが、あの状況で僕のところにパスが来るようなプレーしかやっていなかったんです。そこで僕が打たなかったら、その後に何もなくなっちゃう。そういうオプションを作ってもらえているので、僕もディフェンスとの駆け引きの中で少しでもズレを作っていくことを意識しています。
──『日本人選手が点を取るバスケ』は当たり前のようでそうではなくて、多くのチームがまずは外国籍選手にボールを預けるバスケをします。これは良い悪いじゃなくて、結局は得点の期待値が最も高いからそうしていますよね。秋田はそのセオリーの逆を行っていますが、選手としては面白いですよね。
別に他のチームのバスケが楽しくないという言い方ではないですけど、チームの最初の選択肢が自分になるのは楽しいです(笑)。「日本人が点を取らないと得点が伸びないよ」というバスケなので、僕もそれだけ狙っていきますし、だから数字にもこだわりたいです。全部が全部、外国籍選手に預けて1対1をするバスケじゃないにせよ、そこがファーストオプションになるチームは確かに多い中で、僕たちがこういうバスケを出せるのは楽しいですよ。その中で僕は自分の良さを出していかなきゃいけないので、難しい状況もあるんですけど、やっていてすごく楽しいです。
今回はたまたま僕が4試合で数字を残しましたが、僕が毎試合20得点取らなきゃ勝てないわけではなくて、他の選手にも点を取る力があります。それこそ若い大浦(颯太)や長谷川(暢)も良いところで決めてくれました。そういうバスケットは相手は嫌がるし、僕たちはみんな自信を持ってやっていけます。ファンの皆さんにも楽しんでいただけると思います。
「全力で取り組んでいる姿勢が伝わるようなプレーを」
──前田ヘッドコーチは普通ならリスクと考えそうな戦い方を選択しています。なんでこうなったんでしょうね?
なんでですかね、それはあまり考えたことがなかったですね(笑)。でも、逆にそういうところが面白くて魅力を感じるところなんじゃないですか。顕蔵さんと一緒にやれたら楽しいだろうなと思ったのが、このチームを選んだ理由の一つでもあるので。ディフェンスもかなりアグレッシブだし、オフェンスも他のチームがあまりやらないようなことをやるし、面白いですよね。
僕個人としては、そもそも今まであまりやったことのないバスケットでした。ディフェンスのコンセプトが違ったのでだいぶ戸惑いましたけど、あれだけアグレッシブで相手に嫌な思いをさせられることはなかなかないので。5人がちゃんと噛み合わないと上手くいかないので難しいんですよ。でも、それが成功した時は気持ち良いです(笑)。やっていて新鮮だったし、大変ですけど楽しかったです。オフェンス面では昨シーズンとガラッと変わりましたが、そこで僕自身もトライできるし、やれることも増えているので、あらためてバスケが楽しいなあって今は思ってます。
──次節は琉球ゴールデンキングスとの対戦です。これまでのキャリアで古巣が3つありますが、意識しますか?
しないと言ったら嘘になりますが、多少意識する、ぐらいですね。僕は精神的にそんなに強い人間じゃないので、そこに気持ちを持っていかれると、やらなきゃいけないことがブレ始めるので、意識しないようにしている自分がいます。その時点で意識しているんですけど(笑)。でも、自分たちがどういうバスケットを遂行するかに目を向けてやっていきたいです。
──チームの目標はチャンピオンシップ進出、そして優勝です。古川選手自身の目標はどこに置いていますか?
チームを勝たせたい、もうそれだけですね。個人的なタイトルとか数字は正直どうでもいいので。チームが勝つために僕が数字を残さなきゃいけないのであればやりますけど、僕に得点がなくてもチームが勝てばそれで良いと思っています。チームに何ができるか、チームで勝ちたい、勝たせたいですね。
──「昨シーズンは最悪だった」という言葉がありましたが、極端な話、その昨シーズンのような出来でもチームが優勝できれば、自分がコート外から力になるような形でも満足できますか?
もちろん、どんな形であれできることを最大限やります。それでチームが勝てていたら良いです。ただ、コートにいないのはちょっと嫌ですね。得点はゼロでも良いってさっき言いましたけど、コートには立っていたい(笑)。でも、ケガじゃなく実力で試合に出られないのだとしたら、そこに対して文句はないですし、じゃあ自分が何をしなければいけないのかを考えて、「まずはチームのために」で最大限やっていきたいです。
──あらためてファンの皆さんに、ノーザンハピネッツのバスケのアピールをお願いします。
他にあまりないバスケ、どこよりも激しくやるバスケは見ていてワクワクしてもらえるんじゃないかと思います。結果として上手く行くかどうかはゲームの流れもあるので難しいですけど、チームの誰かがじゃなくて、全員が全力で取り組んでいる姿勢が皆さんに伝わるようなプレーを見せたいです。もちろん勝つという結果は欲しいですけど、そういう姿勢を見てワクワクしてもらいたい、バスケットボールって面白いんだと感じてもらえればと思います。今はまだ会場で、というのが難しい状況ですけど、秋田の本当の良さはアリーナで分かると思っています。まだ来たことがない人は、配信で見て興味を持ったら会場に是非見に来てください。
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October 16, 2020 at 04:06PM
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