ポストコロナを迎える今、各業界をリードするイノベーターたちはDX(デジタルトランスフォーメーション)をどう考えているのか。人工知能(AI)開発と実装を現場で見ているAIビジネスデザイナーの石角友愛氏がトップ経営者や専門家と、具体的かつグローバルな議論を展開する。今回は、観光庁観光地域振興部観光資源課の星明彦課長との対談の後編。コロナ禍を経て大きく変わった観光の需要について聞いた。(対談は2021年12月7日に実施)
石角友愛氏(以下、石角) 新型コロナウイルス禍を経て、観光客のニーズや観光スタイルはどのように変化しましたか?
星明彦氏(以下、星) 現在の観光は従来と世界が変わってしまっています。昔は観光といえば、より安く、より楽しいものを大量に供給することが当たり前の世界でした。実際の観光行動も、観光地に行き、夕食を食べ、翌朝から観光名所に出かけて写真を撮って、お土産買って帰るという一連の流れがパターンでした。しかし、今は地域におけるこのような来訪時の行動や趣旨・目的は全く異なるパーソナルなものに変わっているように感じます。
もちろん、従来の観光行動も見受けられますが、昨今のコロナ禍の影響により、企業の研修や団体旅行、観光バスなどが減少したことで、団体需要がかなり落ち込んでいるのが現状です。このように、観光行動の多様化が顕在化し、広く浸透したことが、コロナ禍における大きな変化だったと思っています。
石角 まさしくダイバージェンスですね。私が経営するパロアルトインサイトにも、ノマドワーカーがチームメンバーにいます。ノマドという働き方は、働く場所を問わないAI(人工知能)業界やIT(情報技術)業界に親和性が高いと思います。
旅行に関して言えば、米Airbnbの社長のブライアン・チェスキー氏も「“どこか今まで行ったことのない、自分が今いる現実の場所以外に行ってみたい”という旅への根源的な欲求は、コロナ禍を受けても絶対になくならない。ただやり方が変わっていっただけだ」と言っています。例えば、米国でワーケーションをする人たちは、キャンピングカーで様々な都市を渡り歩き、その土地のAirbnb(民泊)に滞在をして仕事をし、週末は観光を楽しむような生活を送っています。
このように、働き方をはじめ、生き方や旅行の仕方に多様性が生まれ、それを実現する後押しになるような環境整備がコロナ禍でさらに進んだのだと思います。
日本では、ワーケーションも含め、どのように観光というツールが使われることが多いのでしょうか?
星 最近の実際の数字を見ると、Y世代やZ世代を中心に「地域に回帰する」という流れが顕著だと感じています。もともとこうした回帰の流れは、シニア層や国内の比較的高収入のアッパー層などの方々によくある傾向でした。
世界を見ると、「そこにしかないものを求めて世界の果てまで行く」というのは、海外の富裕層で顕著な流れでしたが、これが一般の方々まで含めて広がったこともコロナ禍での変化だと思っています。
これまで、毎日会社に通い、組織のルールの中で働かなければならないという、ある種の拘束がありましたが、コロナ禍によってリモートワークが進み、個々人がライフワークをフラットに考えられるような環境ができたことも多様化の要因であると考えています。
石角 ワーケーションも含め、地域へ回帰する人たちにはどのような特徴が挙げられますか。
星 移住に関心がある人たちは、子育てにも関心を持っているという調査結果があります。その一方で、観光地に初回訪問する際の目的は子育てとは関係なく「リフレッシュ」や「癒やし」であることが分かっています。
石角 それは興味深いですね。あくまで観光地への初回訪問の目的は「リフレッシュ」や「癒やし」で、潜在意識として「子育て」があるということですね。
星 こうした人たちにアプローチするためには、最終的にその土地のことを「心地良い場」、あるいは「帰属する場」のようにさりげなく感じてもらえるように、本人たちが気付いていないような新しい提案をして「もう一度来てみたい」という気持ちにさせることが有効です。
石角 具体的にはどのような提案やアプローチがありますか?
星 例えば、旅の中で魅力的な生き方をしている人に出会ったりすると、次の訪問は「あの人にもう1回会いたい」という自発的な行動に変わっていくんですね。そうすると、旅先で自分が認められた、受け入れられたという承認欲求が満たされたり、場の共同性のようなものに対して、緩やかに参加したり帰属したりする心地良さのようなものを感じるんです。
石角 いいですね。
星 このように、地域の人に触れていく中で、帰属意識を持ちながら現地で承認を受けていると、最初は単なる観光客で初来訪したものが、緩やかに「自分がそこに帰属していいんだ」あるいは「そこで自分の生き方が認められていて役に立つんだ」と理解されていく。すると、自発的かつ緩やかに「そこに住みたい」という気持ちへ移行していくのです。
石角 そのようなニーズを捉えるためにはセグメント化が重要で、顧客管理の在り方やシステムの使い方を見直す必要がありそうですね。
以前、東京から1時間半ぐらいで行ける場所の市長と話した際「日帰り人口が多くて泊まってもらえない」という課題を抱えていました。宿泊してもらえないと、最終的にはその地域の消費は増えないので、宿泊する人を増やすために、観光からワーケーションにシフトさせる起爆剤として、データの活用ができるのではないかというお話をさせていただきました。
例えば「Kaggle(カグル)」というインターネットでデータを公開しているプラットフォームがありますが、それの市町村バージョンのようなものを想定しています。具体的には、市町村が持つデータに制限をかけた状態で公開し、世界中のデータサイエンティストやIT人材が来訪してそれを活用してAIモデルをつくれるようにするのはどうかというような提案です。つまり、その地に来ればデータが手に入り、そこで面白いモデル制作や現地の人に役に立つITの仕事ができるような仕組みがあれば、地域を活性化できるのではないかと考えたのです。
データの活用やDXというと、社内や自治体の中での業務改善という方に目が行きがちですが、このようにデータを外部に公開することで観光資源にするという考え方もあります。
星 先のシステムの全体像を把握することに通じますね。また、画一的な商品やサービスの供給、いわゆる「マス」から「スモールマス」へ変化する良い事例ではないでしょうか。
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