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コラム:マイナス金利解除、鍵握る米経済の行方=門間一夫氏 - ロイター (Reuters Japan)

[東京 4日] - 日銀は「2%物価目標の実現が見通せる状況になった」と判断すれば、マイナス金利や長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の解除を検討する。その可能性は1年前には非常に小さく思えたが、現時点で筆者のベースシナリオは「2024年4月解除」である。

しかし、その不確実性は大きい。「賃金と物価の好循環」が確認されるためには、まずは来年の春季労使交渉で、今年並みかそれ以上の賃上げが求められる。

<間口を広く取って構える日銀>

さらに最近の日銀は、「賃金から物価へ」という方向の動きもしっかり点検していくとしており、10月の展望リポートでもその分析が強化された。良好な賃上げはあくまで必要条件であり、十分条件ではないというわけだ。

「賃上げが良くても不十分」というのは、かなり高いハードルに思える。この考え方を厳格に適用するなら、来年4月というタイミングで「2%物価目標の実現が見通せる状況になった」と言えるようになる可能性は、限りなく低いだろう。

しかし、日銀の植田和男総裁は、年内に2%物価目標の実現が見通せるようになる可能性も完全には否定していない。年内だと残るは今月18─19日の会合だけである。さすがにその可能性は低いとしても、来年1月のマイナス金利解除を予想する市場関係者は少なくない。そうした市場の見立てを積極的に否定するような日銀幹部の発言もない。

このように、現在の日銀の情報発信は、近い将来におけるマイナス金利解除を完全には否定しない一方、道のりがまだ相当長いとの印象を与えるロジックも展開しており、間口を非常に広く取った柔軟な構えになっている。

2%物価目標の実現を巡る不確実性が両サイドに大きく、様々な可能性に対応できるポジション取りをしておくのが現時点では賢明であることを、日銀自身が一番強く感じているからだろう。

金融政策は最終的には総合判断つまり「アート」であり、客観的な指標で白黒がはっきりする「サイエンス」ではない。日本経済を巡る認識を政府とすり合わせることも不可欠である。

もともと2%物価目標は、デフレ脱却へ向けた政府と日銀の政策連携として生まれた経緯がある。政府のデフレ脱却宣言と無関係に、日銀がマイナス金利解除を決めることはないだろう。

政府がデフレ脱却宣言に向けて重視する指標の一つに需給ギャップがある。この点、7─9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が前期比年率マイナス2.1%と落ち込み、需給ギャップが再びマイナスとなったことはやや逆風である。10─12月期のGDPでこれをどこまで回復できるかは、来春以降の日銀の政策に少なくない影響を与えるだろう。

<米国の景気後退リスク、引き続き無視できず>

そして、日銀にも政府にも気になるのは海外経済の動向だと思われる。中国経済は不動産バブルの崩壊もあって、しばらく力強い成長を期待できそうもない。そこでポイントになるのが、過去1年間、大方の予想を裏切って高い成長とインフレの低下を両立させた米国経済の今後である。

これまでの傾向が続くなら、以前はナローパスに思えたソフトランディングがきれいに実現しそうである。実際、市場関係者やエコノミストの間には、そういう楽観論が増えてきた。しかし、引き続き無視できない景気後退リスクがある。

何と言っても、1年強の間に5%以上もの利上げが行われた。金融政策の効果には不確実性の大きいタイムラグがあり、これまでの利上げの影響が近い将来、思いのほか強まっていく可能性が残る。

最近の経済指標には、やや弱めのものも珍しくはなくなった。ひとたび経済の減速がはっきりし始めたときに、企業や家計のマインドに弱さが目立ってくるようだと、金融市場でもリスク回避の動きが強まる。

実体と金融の両面から負の力が働き始めると、その相乗作用は時として予想を超えて大きくなる。景気循環とは、もともとそういうものである。直前まで順調だった経済が、人間心理の同期性で一方向に傾く場合が往々にしてある。

日銀による2%物価目標の成否見極めが来年の春ごろだとして、そのころ米国景気の後退色が強まれば、政府や日銀の勝利宣言がいったんお預けになるのは想像に難くない。

そもそも日本経済は、前述のとおり足元はマイナス成長であり、決して順調に改善しているわけでもない。物価そのものも、輸入物価の価格転嫁はピークを越えつつあり、ここからは上昇率が鈍る局面に入っていく。

経済が強すぎるわけでも、インフレに歯止めがかからなくなるわけでもないのだから、マイナス金利をあせって解除しなければならない理由は乏しい。

海外要因を含めてどこかに不安要素があるなら、それが十分薄まるまで「待つことのコストは小さい」と日銀は考えるだろう。

<大きく円安が進めば、マイナス金利の早期解除も>

一方、仮に来年1月、あるいはひょっとして今月など、早いタイミングで日銀がマイナス金利解除に向かう可能性として、ほとんど唯一考えられるのは円安の進行である。

円安はせっかく下がりかけた輸入物価を再び押し上げ、物価対策に必死の政府にも頭の痛い問題となる。ただでさえ低迷する岸田文雄政権の支持率は、円安が進めば致命的な打撃を受ける可能性もある。

政府はいつでも為替介入に動ける準備はしていると思うが、それだけでは十分でない。そもそも円安がさらに進むとすれば、米国経済が想定以上に強く、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ再開リスクが、にわかに意識されるような場合である。

ここ2年ほど、為替市場のメインテーマは内外金融政策の違いであり、それは今も基本的に変わらない。米国の追加利上げが意識されて円安が進むとき、日銀がゼロ回答なら円安は止まりにくい。

日銀はずいぶん前から、春季労使交渉の結果判明前でも、十分な賃上げを見通せるようになる可能性を否定していない。その場合に重視されるのが企業収益や物価の動向であることも、日銀はある程度具体的に示してきた。

その面に着目すれば、企業収益は史上最高を更新し、物価も10月展望リポートで大幅な上方修正になっている。円安への対応を含めて政府とよく連携し、「総合判断」でマイナス金利解除に進もうと思えば、いつでもそうできる布石を日銀は打ってきている。

「2%物価目標の達成が見通せる状況」というのは、かなり幅のある表現である。現在の物価や賃金の情勢、来年の賃上げに向けた大手企業の前向きな姿勢などからみれば、今この時点においても「見通せる」「見通せない」とどちらも言える状況にある。

日銀は、この先どちらにも柔軟に動ける状態を、かなり周到に作り上げてきた。いったんどちらかに動くのかが決まりさえすれば、あとは作文の問題であり、日銀には造作もない単純作業に近い。

問題は「どちらに動くのか」を決める最も肝心な部分であり、その鍵を握るのは米国経済かもしれない。景気後退の可能性が高まるなら日銀は「待ち」の姿勢を強め、インフレのぶり返しやそれに伴う再利上げの芽が出てくれば日銀は円安回避に重心を移す。

日銀が純粋に国内要因だけで2%物価目標達成を判断できるのは、海外要因によるかく乱が最小限にとどまる場合、つまり米国がきれいにソフトランディングする場合である。前述のとおりその可能性が以前よりも高まっていることは、日銀にとって心強い追い風である。

しかし、逆に言えばリスクもそこにある。冒頭述べた筆者の「4月解除シナリオ」も、米国のソフトランディング、少なくともそれに近い展開が条件になる。ここから数カ月、米国の経済動向から目が離せない。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラム向けに執筆されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*門間一夫氏は、みずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブエコノミスト。1981年に東京大学経済学部を卒業後、日本銀行に入行。86年に米ウォートンビジネススクール留学。調査統計局長、企画局長を経て、12年に日銀理事(13年3月まで金融政策担当、以降、国際担当)を歴任。16年に日銀を退職し、みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミスト。21年4月から現職。

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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