光文社といえば女性月刊誌の強いランナップでしられてきた出版社だ。『JJ』『CLASSY.』『STORY』『MART』などだ。
この何年かは一時期ほどの勢いはなく、様々なテコ入れを行ってきた。その中でも苦戦しているのが『JJ』だ。これは端的に言って、その読者対象である20代前半の女性が、雑誌を読まなくなり、情報をスマホから入手するようになってしまったためだ。
このことは光文社に限らず、講談社や小学館も、かつて赤文字雑誌と言われたこのジャンルをどうするのか、この何年か頭を抱えながら取り組んできた。
その中で光文社は、2019年に『JJ』編集長を替え、大幅リニューアルに打って出た。なかなかすごいリニューアルなので紹介しよう。
立て直しで創刊号から読み返した
「『JJ』をやるということになってから、44年前の創刊号から全部誌面を読み返してみたんです」
そう語るのは2019年6月に『JJ』編集長に就任した今泉祐二さんだ。それまで9年間『CLASSY.』編集長を務め成功させた。同誌は28歳から34歳のまだ結婚していない女性をターゲットにした月刊誌だ。そして結婚して主婦である女性を対象にしたのが『VERY』、子育てが一段落した40代女性を対象にしたのが『STORY』。そんなふうに読者を分割してラインづくりを行うセグメンテーションという手法をとっているのが光文社の女性月刊誌群だ。
そしてこの何年か、頭を痛めてきたのは、『JJ』が対象とする20代女性が、ファッションなどの情報源をスマホに移行させ、雑誌をほとんど読まなくなっていることだ。市場自体が急速に縮小し、各誌の部数が落ちていった。『JJ』も部数が急落した。
その対応として光文社は、『JJ』編集長に同社史上最年少の女性編集長と言われた原さやかさんを据え、2014年に同誌の読者対象を25歳にするという大リニューアルを行った。女性誌でも少し上の世代はまだ急激な市場縮小にはなっていないからだ。
それから5年。リニューアル当初は部数も一時伸びたのだが、厳しい状況は変わらなかった。『JJ』の立て直しというのは大変困難で重たい仕事だった。
そして今回、白羽の矢がたったのが今泉編集長だ。就任して宣言したのは、『JJ』を再び女子大生向けの雑誌に戻すという方針だった。
「たぶん『JJ』を25歳向けの雑誌として僕がやったら、『CLASSY.』と同じになってしまうと思うんです。『JJ』の44年分を読んで僕がすごく面白いなと思ったのは、女子大生というのはいろいろなことを初めて経験する人たちなんですね。そういう彼女たちの感覚は記事にしてみるとすごく面白いんです。
問題はそういう興味の対象についての情報を得るのは、昔は雑誌だったのが、今はスマホになってしまっていることです。だから紙の雑誌だけで収益をあげるという考えからは脱却しないといけない。そうしないと同じ問題が今後、『CLASSY.』『VERY』にも必ずやってきます。スマホ世代で雑誌を読まない女性たちがそのまま年齢を重ねていくわけですからね」(今泉編集長)
20歳宣言と「JJgirl」の立ち上げ
今泉編集長が新たに手掛けた『JJ』は2019年7月23日発売の9月号だが、いきなり表紙に『JJ』のロゴがどんと描かれこう書いてある。
「私たちaround20世代がいま着たい、行きたいところ、やりたいこと全部!」
いきなり20歳宣言を行ったのだった(写真参照)。
この後、表紙は試行錯誤で、11月号は光文社の女性月刊誌としては初めて、表紙をイラストにした(写真参照)。
そして1月号は驚くべきことに判型も小さくした。
「今の女子大生はiPadより大きい判型の女性誌を持ち歩くという習慣自体がないですからね」(今泉編集長)
もちろんスマホ対策は最重要課題だ。
「基本はインスタグラムとユーチューブと考えています。インスタグラムもまだまだフォロワーが少ないのですが、これもフォロワーが多ければよいということではない。それを使ってどういうターゲットを対象にどういうことができるのか、今はクライアントに対してそういうことを細かく企画提案しないと広告もとれないんです。動画のニーズが多いことも最近の特徴ですね」(同)
もうひとつ今泉さんが行ったのは、「JJgirl」という女子大生のグループを組織化したことだ。読者モニターでもあり、企画にも関わってもらう集団で、現在13人。そのほか女子大生11人がライターとして関わっている。誌面でも「今号のJJgirl」というページを設けている。女子大生スタッフはさらに増えていく予定だ。
標準化進めてきたデジタル事業部
紙の女性誌が苦戦しているのはどの大手出版社も同じだ。突破のための方策としてこの何年か取り組んできたのは、紙だけに限定せずにブランドを作るという方針で、ネットなどと紙を連動させるということだ。それと密接に関わるデジタルへの取り組みについて取材した。
光文社全体のデジタル戦略について、まずメディアビジネス局デジタル事業部の森川正人部長に聞いた。森川さんは同局のID戦略室担当部長でもある。
メディアビジネス局とはかつての広告局だ。現在、同局にはデジタル事業部、ブランド事業部、広告部の3つの部が置かれている。このデジタル事業部が担当しているのは、『女性自身』『フラッシュ』の週刊誌以外の女性月刊誌だ。
週刊誌2誌はコンテンツビジネス局の雑誌コンテンツ事業部でデジタル化を進めている。つまり女性月刊誌については、広告という大枠の中でデジタル化を推進していこうと考えていると言ってよいかもしれない。
「デジタル事業部が発足したのは2015年で、私は翌年の2016年に配属になりました。
この3年間、まずやってきたのは各雑誌のwebサイトをリニューアルして標準化を図ることでした。『JJ』『CLASSY.』から順番に始めて、3年かかって2019年8月、『美ST』と『Mart』まで全体が標準化されました。『Mart』などこれまでwebの更新頻度も低かったのが、リニューアルで更新頻度もカテゴリーも増やしたところ、大幅にユーザーが増えました。
そのうえで11月に新たに『JJ』と『CLASSY.』に紙と別にwebの編集室が置かれました。それぞれJJnet編集室、CLASSY.ONLINE編集室というのですが、3名と2名の社員がいます。そのCLASSY. ONLINE編集長に就いたのが、『JJ』の紙の編集長だった原で、JJnet編集長は当面、今泉が兼務しています。
そして同時に両誌では、新たな読者の組織を作り、それぞれ『JJgirl』『CLASSY.LEADERS』という名称で、メンバーの紹介も始めています。今後、イベントを開催するなどして『顔の見える読者』を増やしていこうということですね。
この2誌のやり方が他の媒体にも拡大していくかどうか決まっていませんが、会社にとって需要なトライアルになると思っています。
いずれにせよ女性月刊誌全体のデジタルが標準化されることで、デジタルを使った試みを増やしていくことになります。例えば2019年は、ラグビーブームで「にわかファン」が増えたと言われますが、『VERY』では『ファミラグ』と言って、家族でラグビーを楽しもうというキャンペーンを行いました。これにはタイアップもついて幾つかのクライアントが関わっていただきました。それ以外でもサイトが標準化されたことで、5誌連動の広告展開といったこともしやすくなっています」
厳しい状況下で新規事業を軌道に光文社全体の取り組みについては、武田真士男社長に伺った。
「全体としては厳しいですね。社内の意識改革を進めて、新規事業を軌道に乗せないといけないと、事あるごとに言っています。
新規事業というのはもちろんデジタル絡みで、この夏には思い切った役員の異動も行いました。2019年にデジタルが次のステージに入ったのは確かです。ただ、まだ紙の落ち込みを補うところまでは至っていません」
2020年には『VERY』編集部から新しい媒体を発行する予定だという。
「『VERY NAVY』というものですが、いきなり新雑誌を立ち上げるのではなく、まず3月4月5月の3カ月『VERY』に付録として挟み込む形にします。滝沢眞規子さんが『VERY』の表紙モデルを卒業したので、滝沢さんを起用して、30~40代アッパークラス向けのラグジュアリーメディアという位置づけです。その後、秋の9月10月11月も予定しています。単独の雑誌として立ち上げるかは、その結果を見てと思っています」
『JJ』テコ入れなど、光文社全体の動きは今後、どうなっていくのだろうか。
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February 29, 2020 at 08:40PM
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