ミニマムな家族ドラマから世界的な社会問題までも独自な表現で描いてきた大西弘記が主催のTOKYOハンバーグ。近年は様々な手法で外部への脚本提供や演出も手掛け、この3月にテアトロ新人戯曲賞を受賞、ますます活躍が期待される注目の大西が描く最新作とは。主演の井上薫と脇田康弘の3人に話を聞いた。
力のある先輩たちがオーディションを受けに来てくれるのはとても嬉しい
――― テアトロ新人戯曲賞の受賞、おめでとうございます。
大西「ありがとうございます。去年の4月に上演した『のぞまれずさずかれずあるもの』2部作の『東京2012』でテアトロ新人戯曲賞を頂きました。今作の執筆に苦しんでいる時に受賞の嬉しい報告があったので、その日は飲みに行きました(笑)。励みになりますよね」
――― そんな中で今作の稽古も始まりました。稽古期間は長めですね。
大西「稽古をやりすぎる、煮詰まるとはあまり思わなくて。やればやるほど役者ももっと人物の人生を歩んでいくでしょうし、稽古はやはり大事ですよね」
――― 稽古の手応えはいかがですか?
脇田「大西さんの作品は3作目ですが、いくつか手がかりを貰っていまして、その要素がどこに行きつくのかはまだわかっていなくて」
大西「それはまだ本を最後まで渡せていないからです(笑)」
脇田「そうなんです。キーワードとして今回のテーマを頂いていて、それに自分たちどういう関わり方をしていて、最終的にはみんながあるポイントで重なると思うのですが、そこはまだくれないんです。本人の中では出来上がっていると思うので、そこにどうやってたどり着いていけるか」
井上「TOKYOハンバーグには初めて出演しますが、もともとTOKYOハンバーグ作品が好きで普通に観るたびに素敵だなと思っていました。脇田くんとは一昨年まで俳優座に在籍していて、私が先に退団したその直後くらいに彼がハンバーグの『へたくそな字たち』(再演)に出演したんですよ。“え! なんでだろう!? なぜわっきーが出てるんだろう、どうしたのよ!”と。それからも続けて出演していたので、いいな〜羨ましいな〜と思っていて。
そんな時に脇田くんから次の作品でオーディションがあることを教えてもらって、早速応募しての参加です。慣れている方もいっぱいいらっしゃる中で主演をいただきました。とても幸せと感じる前に、ここにきてヘマをしない様にしなきゃと、この間の本読みの時にすごく思いました」
大西「井上さんはオーディションで主役を掴みました。脇田さんもお忙しいだろうと思って前回オファーをしなかったんですが、オーディションを受けに来てくれて、去年11月に上演した作品で主役をやって頂きました。力のある先輩たちがオーディションを受けに来てくれるのはとても嬉しいですよね」
声になりにくいけど身近なところにある物語
――― 今作は現代劇とのことですが、脚本を手にした印象は?
脇田「大西くんは社会問題や現実問題から離れずに書くところがあると思っています。昨年の11月公演『人間と、人間と似たものと。』は国際的な問題を描いていましたが、もともとの大西さんの作品は“声になりにくいけど身近なところにある”、“声が聞こえにくい人の事”を書いている印象があります。なので今回もその視点で書くのかなと。
今回セルフネグレクトというキーワードを共有していますが、自分を愛さないということは孤独の中にあるような気がしてて、ちょっと興味深くてどんな結末になるのか」
井上「まだ最後を出してもらえてなくて(笑)、脇田くんが言った『声になりにくい』ところにあえて焦点を当てていく所です。先日の作品で思ったのが、見る角度が押しつけがましくなかったんです。社会問題を扱う作品だとこれが正しいでしょう、みたいな考え方を押し付けられる感が実はあまり好きではなくて、でもそれが様々な立場の人からの声に聞こえてきたんですね。ほかの作品もそうですが、大西さんの中には一本筋があるんだろうけれども、でも人ってそんなに簡単じゃないよねって。それぞれが抱えている背景があっての行動になっていて、“それはわかるけど、ここは無視できないよね”という感じのところが私はすごく好きで。
今書いてくださっている台本を読んだ印象も、すごく自分自身が共感できる言葉がたくさん並んでいるんです。私が共感している部分が、自分が最も芝居をやる上で大切で欠けてはいけない部分であるような気がしていて。でもセルフネグレクトと結びつけるというところがまだ繋がっていなくて、この役は創作活動をする人だから、どういう思考回路を創作意欲につないでいくんだろうと、まだモヤモヤしていて物語の先を待ってるところです。
言葉自体はやっぱり期待通りでした。何でもない会話なんだけど、いろんなことを想像させられる言葉が並んでいますね。なんでもないやり取りなのにヤバイ泣く!みたいな。今回は観客ではないから泣いてはいけないんですよね(笑)」
――― お2人は大西さんらしい台本とのことですが、大西さんにとっては今までとは全く違う手法で取り組んでいるとのことですが。
大西「2018年までは自分の得意とする手法でずっと書いてきていて、そこに限界を感じて2019年は外部を含めて作品を6本書いたんですけれども、今までやらなかったことをやったりして全部違う手法で書いたんです。それは18年までの自分を越えたかったのでそういう書き方をして、2020年の今年は軌道修正を!と思っていたのですが、あまり意識しないで好きに書いています(笑)。(※取材が行われたのは稽古がスタートしたばかりの2月末)
今は読みを聞いて、これからの事、演出をどうしよう、考えて工夫する事が演劇の楽しさでもあるので、意見を聞きながら、あえて変えようとか前の自分を意識せずに書いていますね。降ってくるもの、沸いてくるものだったりを見逃さずにスパっと掴む、みたいな。とてもフラットな気持ちで書いていて、読み返すとヘンテコで面白い本になっています。タイトルやセルフネグレクトというキーワードから重い話かな〜と思われがちなんですけど、全然そんなことは無いです」
演劇を通じて色々な人に出会っています
――― キーワードが出たところでお聞きしますが、毎回作品づくりの一環で大西さんは取材として現場へ行かれています。Facebookでもハードな所へ入った日記がありました。どう生かされていくのでしょうか。
大西「特殊清掃の現場に行き、実際に孤独死された方の部屋を清掃員の方と一緒に清掃しました。you tubeなどでも見られますが、映像や文体とかでは肌で感じられないものがあって、現場に行くことによって感じることを探しに行っています。ごみの中からその人の生活が見えてくるのが怖いとかではなく、とても不思議な感覚になります。もちろんハードな取材だけではなくて、コミュニティがとれる見守りネットワークとか、そういうところにも行ったりとかして、 演劇を通じて色々な人に出会っていますね。演劇人ではなく一般の方に出会えて、演劇ばかりやっているとその世界しか知らない人になっちゃうので。社会見学のようで毎回得るものは大きいですね」
――― ではこの作品を書くきっかけは?
大西「孤独死が増えていく昨今、僕がお世話になった方が去年亡くなられたんです。その方がまさしくセルフネグレクトになっていたのかなと。アル中で病院も付き添って、そういう病気って独りではどうにもならなくて。時々会いに行っていましたが暮れに亡くなりました。なぜそうなってしまったんだろう、そういう経験があったりとか、漠然といつもこの問題は引っ掛っていました。その引っ掛っている事は自分から探すことではなくて、自分の生活の中でいつの間にか引っ掛っている。それがだんだん重しのように重くなって引っ張られ、それは僕にとって痛いから、この痛いことはなんだろうと。そうなると調べ始めるんです」
――― この問題は現代を生きる誰しもが薄々片隅で考えている問題ですよね。
大西「孤独死や特殊清掃のお芝居は、劇作家の丸尾聡さんが書いているし、僕はそれを観た事もあって、それは本当現場の話で、ワンオンの田村さんも書いていらっしゃるそうですが、僕は違う観点で書こうと思っていて、笑いの連続です」
脇田「ホントですか? それが書いてあるところはまだ見てないですよ(笑)」
井上「まだ無かったですね(笑)。見落としてる?」
大西「ダ・ヴィンチ・コードってありますよね、僕のはヒロキ・コードといいます(笑)」
井上「(笑)」
薫さんにピンときて女性を主人公に書いてみようと
――― 役どころについて教えてください。
井上「私は作家の久美子役を演じます。大西さんが髪をのばして女性になったら、たぶんこういう感じなのかなと」
脇田「元女優の劇作家さんだよね」
井上「そうそう。最近通訳が上手になってびっくりしちゃった、ありがとう!」
脇田「私が劇団俳優座に入った時、10期上の先輩でそれだけキャリアのある方で、僕が駆け出しの研究生の時に手伝った舞台に出演されていたんです。もうお姉さんの感覚ですね。あまり言っていませんが実は13年間同じ芝居の相手役として務めていたのがつい2年前で」
井上「斎藤憐さんが書いた『春、忍び難きを』という作品で、本当に素晴らしい作品です」
脇田「2005年にオーディションがあって、本来なら僕なんて準劇団員ですから声がかかるような立場ではなかったんですが推薦してくださって、ふたを開けたらこうなってて」
大西「主役だったんですか?」
井上「重要な役どころでしたよね」
脇田「家族劇で、戦争中に女性たちが家を支えるような日本の社会を描いていて右往左往する男がいるんですが、その若い時代の男役を担っていまして、膨大なセリフ量でしたね」
井上「2年前が最後で当分この人と演じることはないだろう、と思っていたら! 私が言いたいことをまとめてスッと言ってくれるくらい大人になってて、頼りになります」
脇田「もうそこそこのお兄さんに成長しました(笑)。大きい劇団なので地方に行くこともあり、小劇場では多い150ステージをやるんです。一回離れるとしばらく会わないので、今回の2年ぶりの共演はそのスパンに近いのかな」
井上「その作品以外では共演していないんですよ」
――― 久しぶりの共演だからこそ、違う意味で新鮮かもしれません。
井上「これからどうなるかわかりませんが、生きていればみんな闘っているんですよね。常に自信が無くて、でもやりたい、でもだめかもしれない。ごくごくみんなが抱えている悩みを持った女性役です。さっき笑いがあると言っていたけど、悩んでいるとかそのままやっても楽しくないから、その見せ方を今回はライトにしていくのかな」
――― 経験を重ねて生きてきたからこそやってくる悩みがあって、井上さんだからこそできる役になりそうですね。
大西「劇作家を軸にして描いてく構想は最初からあったんですけど、薫さんがオーディションに来た時に僕のテキストをやったんですが、それを見てこの人だと。それで女性の劇作家にしよう、そこからイメージがバーーと広がったんです。舞台の上ではウソをつけない人なので、ウソなく見えるんです。俳優はそのためにメソッドだったりを学んで修行するんですけど、薫さんはホントに自然だったんです。それがピンときて今回女性を主人公に書いてみようと」
井上「読んだ時、もっと早く台本が欲しかったなーって思わせるところがいっぱいあって、いくら時間がっても足りないと思いながら初日を迎えると思います」
脇田「僕は特殊清掃の会社をやっている社長役です」
大西「クレジットにも入っていますが、僕が取材で現場に行った時にお世話になったタスカットさんにこれから取材に行っていただきます」
脇田「そうなんです、ドキドキします。このお仕事は社長というより職人で親方と言った方がいいのかな。親方がいて見習いがいって、集まってくる人間も多様でなかなか大変な職種だと思うので興味深いですし覚悟はしています。
俳優って孤独といいますか、知らないコミュニティの中に独りで入って行ってお芝居を作ってやる、この作業は自分を投げやってないんです。セルフネグレクトとは逆の軸があって、役者は自分を愛して試していくので、今回のテーマとは真逆の孤独。
孤独にはタイプがあって、夜中まで酒を飲んでつまらなそうにしているけど、自分を愛そうとして葛藤がある孤独と、それを認められずどんどん自分の生活を放棄していく方の孤独。違う孤独なんです。欲求が多すぎる孤独と欲求を排除してあきらめた孤独。まずこの違いを埋めなければと思っています。それを直視すると『何故!?』と思う事が多いと思うんです。ふり幅が大きくてショックを受けそうで、実は怖いんです。僕は楽観的な未来を望んでいる所があって、今がこうだから何とかしよう、できそうな気がする、と根拠のない自信でやっているので、ネガティブなテーマは挑戦ですね」
大西さんの創作の謎を解き明かしたい
――― 2人から見た大西さんはどんな方ですか?
井上「私は作品の感じから直接お会いするまではもっと年上の方だと思っていたんです。それが会ってみたら若い!と。口に脳みそがついているのかなってくらいお話好きな印象です」
脇田「そもそものご縁のお話なんですが、大西くんは僕の3歳下で三重県の伊勢市出身の同郷なんです。お会いしたのは東京ですが、故郷のあんちゃん的な存在で、僕もそうなんですが文学青年とかではなく、野山を駆け回った男子の発想を持ったまま大人になって東京に来ちゃったような感じで、純粋な所が表に出ちゃうピュアな方ですね」
井上「それなのに本になるともっと落ち着き払ってるような感じがしていて、そのギャップが面白くて、本当にこの人が書いているのかと」
脇田「うんうん。大西くんは学生時代サッカーをやっていて中学時代は市を代表するプレイヤーだったんです。県内でサッカーでは強豪の高校へ行っていて、これは大きなことなんですよね。甲子園の常連校に野球で入ってしまうくらい、そこに入るだけでもすごいこと。その環境で揉まれて、それなりの経験をしたということは普通の感覚ではないので、それは仕事で生かされていると思います」
大西「サッカーの名門校に推薦で入れたんです(笑)。でも僕はレギュラーにはなれませんでした。あの時は人生で一番努力したかもしれません。スナック菓子を食べないとか炭酸水飲まないとかストイックにやってました。お腹も6個に割れてたし」
脇田「そういうスピリットをたまに感じるんですよね」
大西「確かに15歳で親元を離れて寮暮らしだったのに加えて、色んな人との出会いがあり親のありがたみに気付きました。お金を出して気付けることではないですよね。この本を去年から書いていますが、僕が生まれてから今日に至るまでの何かしらの人生の一部分が吐かせているんだと思います。レギュラ−になれず悔しさばかりでしたが、今となってはいい経験だったと思いますね」
脇田「だから謎なんです。閉じこもって書いてたとか文学部とかならわかるんですけど、そこに絶対行かなそうな人が本を書いている。膨大な言葉を書くこの作業は練習してできることではないと思うんで不思議で。なぜスポーツをずっとやってた人が劇作家なんだろうと、解き明かしたい謎なんです」
大西「僕は二十歳の時に伊藤正次演劇研究所に入ったんですけど、先生の一番最初の質問が『今までどんな本を読んできた?』でした。僕は本なんか本当に読んだことがない青年だったので『ジーコのリーダー論』ですと答えたんです。そしたら先生は無表情で『もっと読んだ方がいいね』と言ってました(笑)。その時から読み始めました。残らない本もありましたが、凄くいいなと思った本は何回も読みますよね」
脇田「演劇は文学好きの人だけが見るものではないので、そういう人に届く言葉がもしかしたらあって、スポーツから挫折した人が本に出合ったことが世界観の広さなのかな。ちょっと異質ですよね」
井上「これはヒントというか、なるほどって思った!」
大西「文学青年ではなかったんです。でも汗や泥ばかりの青春でもなかったです。良くないことも沢山しました(笑)。真面目ではなかったと思います。いつもイライラしていました。その理由もわからずに(笑)」
井上「この人の何に感動しているのかよくわからなかったんです。クッと何かを押されるんですよ。それが今回の作品でも、頭で考える作業じゃないなって話を聞きながら思いました。自分の行動と久美子の行動とつなげていく作業があり、今のお話は助けになりそうです」
表現は人間らしく生きていくための砦
大西「今に至るまで色々な出会いと歴史がありまして、19歳の頃、軽く引きこもっていた時期に『釣りバカ日誌』をすごく見ていたんです。たわいもない三国さんと西田さんのやりとりが好きで、俳優に興味が沸いて上京しました。ここ数年では寅さんも見るようになって、山田洋次監督とも青年劇場さんに書き下ろしさせて頂いた縁から繋がり、お食事や撮影現場の見学にも呼んで頂きました。監督の映画には俳優になりたいと思う要素がいっぱい詰まっていました。小難しいことではなくて、留めておきたいことを表現する、それがとても伝わって俺もそんなセリフが書けたらと。僕の本には『え?』とか『うん』とかが多くありますが、感覚は言葉にしづらくて、でもその感覚をちゃんと言葉にしないといけないし、生きている人の感覚を書きたいんです」
――― 今作の一番描きたいことは?
大西「セルフネグレクトから孤独死へ繋がっていきますが、その言葉に囚われずに、僕が書いているのは何かをモデルにしているのではなくて、どこにでもありうる話を書いています。それが見た人のすぐ隣にあるかもしれないし、そこにいるかもしれないし、そこにこれから行くのかもしれない。そういうところを見ていただければ。
先ほど脇田さんが『声になりづらい小さな声』と言いましたけど、確かにそうだなと。表現は人間らしく生きていくための砦だと思っているので、そういう作品になったらいいですね。そしていつも言っていますが、今回も本当に素敵な俳優が揃いました、頑張ります」
脇田「バラバラな要素で書かれていますが、接点が無さそうでくっついている群像劇です。新宿のサンモールスタジオで上演する作品として合っている気もしていて、サイズもそうだし場所とかニオイみたいなものは合っているんじゃないかなと。そこも楽しみですね」
大西「そして今回は本編のあとに関係者をお招きしてイベントも検討中です。ぜひいらしてください」
(取材・文&撮影:谷中理音)
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March 16, 2020 at 08:06AM
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