2020年に4回目を迎えた「オリックス 働くパパママ川柳」。過去最多となる5万4610作品が寄せられた。特別審査員を務めた田中裕二さんは、妻の山口もえさんとともに働きながらの子育てに奮闘する3児の父だ。印象に残った作品と、毎日を笑って過ごすためのヒントを聞いた。
川柳は「笑える社会勉強」
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キラーフレーズが炸裂する風刺、ユーモアで程よく中和された愚痴、つらさを忘れる幸せな瞬間。五・七・五に凝縮された多様な笑いを楽しんだという田中裕二さん。
「川柳って、あらゆる出来事を笑いに変えられるもの。働きながらの子育ては、働き手としても親としても気がかりなことが多く、ストレスがたまります。だからこそ笑いを大切にしたいし、みんなにその力を感じてほしいですね」
今回の大賞は「イクメンは 名もなき家事が できてから」。時事ネタを自在に操る漫才の名手は、フレーズの強さが際立った作品だと考察する。
「“名もなき家事”は、2019年後半から急速に世の中に広がった印象があります。かたや“イクメン”は広がってずいぶん経つけれど“男性の育児は当たり前”という空気が社会に浸透していく過程で、使われ方が変わってきたと感じます。今年らしい句ですよね。
まだ“名もなき家事、何それ?”という人もいるでしょう。川柳は言わば、笑える社会勉強。世の中の空気に触れれば生活を振り返ったり見直したりするきっかけになるだろうし、みんなの日常を垣間見れば気持ちが楽になることもあるはず。夫婦や家族で笑いながら、ああだこうだ言い合ってほしいですね。誰にでも当てはまる正解はないと思うので」。
日々の思いを共有するツールになることも、川柳の魅力の一つと言えそうだ。
■入選作品はこちら
「364日の頑張り」に感謝をこめて
審査中「晩ごはん 考えながら 昼ごはん」の句に、「これはまさにうちの妻の日常です」と語った田中さん。
その後も幾度となく聞かれたこの言葉から、本格的な仕事復帰を果たした山口もえさんの状況や心情を深く理解している様子がうかがえた。一緒にいれば自然とそうなるものと謙遜するが、これができるのは田中さんに寄り添う気持ちがあるからこそ。
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心がけていることを尋ねると「ありがとうの伝え方に思いを巡らせることはあるかも」と明かしてくれた。
その手段は日々交わす言葉だけではないそうで、昨年は結婚後初となる親友との温泉1泊旅行を山口さんにプレゼントしたという。同時に、自身は初のワンオペ育児を体験。
「どんな日だったか?記憶がないです(笑)。覚えているのは夜中に2歳の末っ子を抱いて背中をポンポンし続けたことぐらい。彼女の364日の頑張りは、この一日ではとてもねぎらいきれないのですが、これからもできることを考えて取り入れていきたいですね。
そういう感覚を忘れずに過ごせば、自然とお互いのやりとりや家族の空気感をいい状態に保てる気がします。嬉しいことって、結構ちょっとしたことだったりするじゃないですか」
今回の応募作には「『俺が看る』 寝落ちの夫(きみ)に 毛布かけ」など、夫婦の連携や思いやりをモチーフにした作品も。川柳はためこみがちな不満をスカッと発散させるだけでなく、感謝の気持ちを忘れずに過ごすことの大切さも教えてくれる。
日常をいとおしむことが大事
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仕事と子育てで慌ただしい毎日でも、なるべく機嫌よく笑って過ごしたいもの。田中さんは普段、どんなことを意識しているのだろうか。
「深刻になりすぎないようにしています。例えば朝から末っ子に保育園に行きたくないと泣かれ、外に出れば寒くて雨が降っていて……とか、これは何重苦かなと思う瞬間は確かにあります。でも、それはそれ。余計なことを考えず、いっそ“無”でいた方がいいでしょうね。だから『子を抱え 暑さ寒さも モールまで』には、すごく共感しました(笑)。みんな一緒ですよ」
むしろ気持ちを向けるべきは、日常のささやかな幸せ。それを田中さんに気づかせたのは他でもない、子どもたちだ。何げない一言や無防備な寝顔で全てを帳消しにしてしまうことが、いまだに不思議でならないという。
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「夜、仕事を終えて帰宅すると真ん中の8歳の子が『パパ帰ってきたから、みんなそろった〜』と無邪気に言うんですよ。その一言でいろいろ吹き飛びますね。その後は、特に何もせずみんなでリビングにいます。『DVDでも見ようよ』と子どもたちが言っても、何を見るか30分話しても決まらず『もうやめよっか!』なんて。それでいいんじゃないですかね。みんなケラケラ笑っているから」
働きながらの子育ては、想定外の出来事に翻弄されることが少なくない。笑顔と心のゆとりをもたらすのは、こんなふうに「まあいいか」という気持ちで日常をいとおしむことなのかもしれない。
たなか・ゆうじ:1965年東京都生まれ。88年にお笑いコンビ「爆笑問題」を結成。以後ライブをはじめ、テレビやラジオ番組で人気を博す。2015年に山口もえさんと結婚。17年に「イクメン オブ ザ イヤー」を受賞した。 12歳、8歳、2歳の3児の父。http://www.titan-net.co.jp/talent/bakushomondai/
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