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「3つの鍵」男の不寛容が3つの家庭を崩壊させる - 大手小町

夜のローマ。閑静な高級住宅街。車が猛スピードで女性をはね、アパートに突っ込む。静寂を切り裂く激突音から物語は始まる。イタリアの名匠ナンニ・モレッティの新作は、このアパートに住む3組の家族の10年間を描く。

運転していたのは3階に住む青年。モレッティ自身が演じる父と母(マルゲリータ・ブイ)は、2人とも裁判官だ。2階の主婦(アルバ・ロルヴァケル)は夫が出張でいつもいない。一人で子育てをする孤独から心を病む。1階には男性(リッカルド・スカマルチョ)とその妻、小さな娘が住む。ある時、男性は娘を少しの間、隣の老人に預ける。だが、認知症が疑われる老人は娘とともに一時的に行方不明になる。男性は娘が老人にいたずらされたと思い込む。一方で男性は、老人の美しい孫娘(デニーズ・タントゥッチ)に誘惑され、つい関係を持ってしまう。

裁判官の父は、飲酒運転で事故を起こした息子を許せない。2階の主婦の夫は、犯罪に手を出す兄を許せない。1階の男性は隣の老人を許せない。3人の不寛容が、それぞれの家庭を崩壊させていく。

「不寛容」は英語でイントレランス。D・W・グリフィスの無声映画「イントレランス」が思い出される。人間の不寛容が引き起こす四つの時代の四つの悲劇を並行して描く超大作だ。その壮大なスペクタクルに対し、モレッティはミニマル。一つのアパートの3家族の10年間を、じっくりと丁寧に描く。驚くのは語り口の巧みさである。

映画「3つの鍵」
(C)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte

3家族は互いに顔見知りだが、深い付き合いはない。しかし三つの物語は、それぞれに独立しながら交錯し、少しも停滞せず流れるように語られていく。円熟を感じさせる、見事な展開だった。

物語の始まりを告げた車の激突音は、「中産階級」という幻想を打ち砕くハンマーの音でもある。欧州の中産階級は日本の中流家庭より上流のイメージだが、いわゆる資本家でも搾取される労働者でもない中間層だ。あるアパートに舞台を限ったのは、そんな人々が暮らす場所だからだろう。事故をきっかけに家族の形は瓦解する。それらは最初から、幻だったのではないか。モレッティは「中産階級」のウソ臭さを暴き出す。

だが、最後には希望が示される。男たちの不寛容を乗り越えるのは、女たちの柔軟さだ。その構図はグリフィスが描いた寛容の象徴「ゆりかごを揺らす女」にも通じる。そこは型通りのようで、やや古くささを感じてしまった。

(読売新聞編集委員 小梶勝男)

3つの鍵(伊、仏)1時間59分。ヒューマントラストシネマ有楽町など。公開中。

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