夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」
※この記事は、期間限定公開です。
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この城、広さから考えて、住人は、千人、一万人ではなかったはずだ。数万人はいたことであろう。
その住民を蟲として、蠱毒をここでやったということか。
馬鹿な。
それだけの人間を、ここで戦わせ、互いに啖いあわせたというのか。
いったいどうやって──
「何のために!?」
「さあねえ……」
杜子春は、首を小さく傾けたが、まだ、その眼にも口元にも微笑が残っている。
「何のためなんだろうねえ……」
ここで、真成は気づいた。
「おれたちもか。おれたちが、この城の中でやらされたことも、その蠱毒という呪法のためなのか?」
「──」
「あんたか、あんたがやらせたのか、杜子春。い、いや、あいつだ。あの、
「そういうことになるんでしょうねえ」
「何者だ。何者なんだ、あいつは。あんたなら知ってるんじゃないのか」
真成の脳裏には、あの
「李復元──あの
「いったい、どういう
「哀れな老人ですよ、あの李復元は──」
杜子春は、不快そうに、その言葉を吐き捨てた。
「この世の不幸と権力を持っている。けれど……」
「けれど?」
「あいつが持っているものは、全て金で買えるものばかりだということです」
「金!?」
「幸福も、不幸も、人の命でさえ、あいつが持っているものは、いずれも金で買えるものばかり………」
口の中にあるけがらわしいものを吐き出すように、杜子春は言った。
さらに問おうとする真成の言葉を遮るように、
「陳範礼よ、見つかりましたか?」
杜子春が問う。
「まだです。おそらくは、神女像のすぐ下あたりであろうと思っているのですが……」
陳範礼が答える。
「では、すぐにその作業にとりかかりなさい──」
杜子春が言うと、
「さっき、見当をつけておいた場所だ。そこを掘るんだ!」
陳範礼が、そこにいた兵士たちに命じた。
「はい」
兵士たち五人がすぐにうなずき、手に
そこからも、幾つもの人の骨が出てきた。
しばらくすると、
かつん、
と、鉄の鍬の刃先が土の中で何かにぶつかる音がした。
「何かあります!」
その鍬を握っていた兵士が声をあげた。
「慌てるな。丁寧に掘るんだ」
真成は、鍬が掘り下げてゆく刃の先を見つめている。
いったい、そこから何が出てくるのか。
鍬が、丁寧に土をのけてゆくと──
見えた。
鍬の刃がのけた黒い土の中に、鮮やかな青い色が見えたのだ。
「これですか!?」
鍬を握っていた兵士が言った。
「そうだ。あとは手で作業しろ」
陳範礼が言うと、その兵士は鍬を捨てた。
もうひとりの兵士も鍬を横に置いて、素手で、直接、湿った土を
ふたりの兵の手作業で、だんだんと土がのけられ、その下にあった青いものが姿を現わしてゆく。
幼児の見る夢に出てきそうな、澄んだ青い色──
掘り出してみると、それは、高さが一尺余りの、青い壺であった。
「そうです。それを我が手に──」
杜子春が、穴の縁から両手を伸ばす。
その手に、青い澄んだ空の色をした壺が渡された。
その上に、同じく青い色の蓋が載せられていた。蓋には、持ちあげ
「おう……」
杜子春が、声をあげた。
「ついに、ついに、ようやくこの壺を手に入れた」
感極まった表情が、その顔に浮いていた。
「その中に、何が入ってるんだい」
真成が問う。
「
そう言ったのは、
「これが、我らを目的の地まで運んでくれるのだ」
杜子春が言う。
そうして、杜子春は、その壺を抱えて、頭よりも高い場所まで、それを持ちあげたのであった。
▶#87(前編)につづく
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February 25, 2020 at 05:01AM
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遣唐使・井真成が、生死を賭けた試練に挑む! 真成に託された役目とは果たして――。夢枕獏「蠱毒の城――月の船――」#86〈後編〉 | 夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」 | 「連載(本・小説)」 - カドブン
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