2020年03月18日
育成/環境昨夏、U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ(以下、ワーチャレ)ではタイ勢が質の高いプレーを披露した。また、U-14東京国際ユースサッカー大会においてもインドネシアのジャカルタ(選抜)がいいプレーを見せていた。昨今、東南アジアのサッカーはレベルが上がっており、ジュニアのトップ・トップを比較すると、すでに日本は追い抜かれつつあるのが現状だ。
そこで、3月は「タイ・サッカーの育成事情を知ろう」と題し、「True Bangkok United」(本文表記は「バンコク・ユナイテッド」)のアカデミーでU-13の監督を務めている保坂拓朗氏にインタビューを行った。第三弾は、タイの育成年代の現状をお届けしたい。
取材・文●木之下潤 写真●中村僚
タイの育成年代の大会、ジュニアにも賞金が出る
――タイ・サッカー協会に所属されているわけではないので答えにくいかもしれませんが、タイスタイルのようなものを構築するにあたり、モデルにしているような国やクラブはあるのですか?
保坂 それはわからないですね。答えにはなりませんが、国民が一番好きなのはプレミアリーグです。「どこのクラブが好き?」と聞くと間違いなくプレミアのクラブ名が出てきます。東南アジアではよくあることです。
――Jリーグは放映されているんですか?
保坂 試合によっては放映されています。北海道コンサドーレ札幌の天皇杯の試合は見ていました。ただうちの選手でいうと、普段から日常的に見ているわけではありません。
――U-12の環境ですが、日本の街クラブや少年団のようなチームに所属しているんですか?
保坂 U-12年代だと学校に特待生で入る子が出てきます。うちの選手で例えると、U-11、12になると全国セレクションを行っています。他のクラブも同じような感じです。それ以外では、地域のサッカースクールに通っている選手もいます。もちろん学校チームもあるので、そこに所属していたりもします。形態はいろいろ混在していますね。
先日、タイ・サッカー協会主催のU-12の大会が開催されたのですが、クラブチームと地域のアカデミーとサッカースクールが出場していました。もう決勝大会の段階では、基本的にセレクションのあるチームが残っている状況でしたね。日本の全国大会に出場するのがJクラブと地域の強豪・街クラブであるように、タイも大きな大会に出場するようなクラブはそれに近い感じです。
実は、こちらはU-12年代の大会になると大会に賞金が出るんですよ。そのせいで弊害があります。
――えっ、賞金ですか?
保坂 昨シーズンのユースリーグは3位だったのですが、20万バーツを獲得しました。日本円でいうと60万円くらい。一昨年は2位だったのですが、30万バーツだったと記憶しています。タイでは、小さい大会でも告知で賞金が掲げられています。
――そういう文化があるんですね。
保坂 昔からそれが普通にあるようです。でも、それを育成年代でやってしまうと、コーチたちは体の成長が早い子を優先して起用するようになりますし、選手の試合出場時間も必然的に勝利至上主義になるような状況に引っ張られてしまいます。
――それはサッカーだけ?
保坂 他のスポーツは把握していません。スポーツ自体、ムエタイかサッカーかなのですが、他はどうなんだろう、、、。
――大人のほうが目先の結果を求める可能性もあります。
保坂 小さくても賞金有の大会がたくさんありますし、大人のほうがヒートアップしているシーンはよく見かけます。勝利至上主義ではないですが、勝ちを意識し過ぎてしまいますから。個人的には改善したほうがいいと思っています。日本はどうなんでしょうか?
――個人的に思うのは両極端な意見を言っているコーチが多いように感じています。一つは「勝負だからこだわる必要がある」という暗黙知を理由に「出場時間5分なのに、出場させました」を正当化させるコーチはかなり多いですし、そこに明確な基準を設けられない現状があると思っています。
でも、これはサッカーに限らず、スポーツ界全般に言えることです。私が住んでいる地域に大きな公園があるのですが、野球やハンドボールなど他のスポーツの試合を観戦していてもベンチにいる子を交代出場させているシーンは少ないです。ただ一方で、極端に「勝たなくてもいい」と発言をするコーチもいたりします。
ここから先は指導に対する価値観や哲学みたいな話なので変な発言はできませんが、「特にジュニアの間は勝ちと育成の両立をするために何をどう学ぶか」、そして「選手にコーチの挑戦する姿をどう見せるか」は、私は育成コーチに求められる資質だと思っています。でも、現状の日本では「そこまでは求められないな」とも思う現実を知っているので何とも言えないです。
現実問題、ジュニアに関しては「育成環境とコーチのスキル」が未発達なので、両極端な意見の対立構造を生んでいるんだろうな、と。リーグ戦化に向けた環境のオーガナイズ、コーチ育成を整備できていないJFAや都道府県協会にもがんばってもらう必要がありますし、ある一面を切り取って「それだけが原因だ」ということで片付けられません。
私個人の意見は、ジュニアで言えば「練習試合も公式戦も全員出場、各個人の出場率40%以上は義務」だと認識しています。私がチームを持っていたらそうしますし、昨年アドバイザーを務めている街クラブではコーチ育成の関係で4試合限定の監督を務めましたが、秋季リーグではきっちり実践しました。
見えないものを含め、才能をどう育むか。
U-12年代までは、これが最優先順位です。身体的、頭脳的、感度的なものなどいろいろな才能がありますが、日本の育成コーチはここを総合的にバランスよく観察できていないのかな、と。その原因はサッカーの解釈の部分にもあります。選手育成でどんな基準を持っているのか。ここに対して具体的な項目出しと査定項目の言語化をクラブとして、また各コーチが行っていない現実があります。
タイの全体的な育成に対する考え方や環境とは?
――私の考えは前述したとおりですが、保坂さんはこの部分についてタイの育成をどう見ていらっしゃいますか?
保坂 「楽しませる文化」というより「勝利を目指す文化」のほうに比重が高いように感じています。「のびのびサッカーしているな」という気はしません。でも、スポーツ以外の日常に目を向けると、かなりのびのびしているんですよね。裏を返すと、だからこそ規律を厳しくしないとチームスポーツにならない部分があるのかもしれません。
――単純に日本だとグラウンド環境などのハードはアジア圏では裕福だと思います。学校教育も行き届いている環境があるなか、「どう個性を伸ばす教育ができるか」と考えたとき、私は「勝利至上主義に当てはめるのではなく、U-12の段階では『可能性を広げる』意味で環境を整え、『上のカテゴリーに進んだときに可能性がパンと花開く』ようにしたほうがいいのかな」と感じています。
これが「現段階の日本の育成のあり方なのかな」と。これは今の社会背景とも関係しています。もうちょっと深く説明すると、そうすることがプロになれない99%の子たちが社会に出たときにサッカー外で違う才能が花開くというか。そのためにも、私はそうしたほうがいいのではないかと。でも、またタイは現状が違います。
保坂 現段階でいうと、タイは「集団としてプレーするときに規律が必要なのかな」と。ただ「タイのコーチが長期的なビジョンを持っているか」という問題もあります。ここは疑問です。木之下さんがおっしゃる才能というのを、最近よく考えます。身体的な特徴以外に育めない才能って何があるんだろう、と。
身体的なものは先天性の要素もあるから、育成では踏み込めない領域があります。基本的に、私は「才能がない選手はいない」と思っています。磨けば何か光るものがあるだろうし、何を磨くかはその子が好きなものだろうし、コーチはどこをどう磨くかを教えてあげるだけでいいのかもしれないと考えることが多いんです。
それこそ全員出場というのも、「全員にスタメンを経験させたほうがいい」という考えを持っています。スタメンで出場する選手にしかわからないことがたくさんあるし、この時点でスタメンの子たちも将来途中出場することがあるかもしれないから逆の育成年代のタイミングで経験が必要なのではないかとも考えています。これも小さい頃から経験させておけばいいのでは、と。
――大事なところですよね。私が監督をやったときは、全員で半分以上出場して回したので、全員がスタメンで、全員がサブを経験しました。そもそもタイのコーチに育成に対して体系的な構造的な指導の概念があるのかを聞く必要がありましたね。
保坂 この質問は深いですね。私も日本のA級U-12ライセンスを取得しましたが、このライセンス制度導入以前の日本も、今ほど指導が体系化されていたわけではないのではないでしょうか。現状、このような育成年代専門のライセンスはタイにはありません。タイのコーチはそれぞれの体験がベースで、コーチ仲間の影響を受けていたり。でも、一部ですが、そのコーチたちの中では長期的なビジョン、体系的なストラクチャーはきちんと見えているけど、日本ほどではないでしょうし、でも日本もヨーロッパほどではないと思っています。
例えば、イングランドはユースモジュールがしっかり体系化されいると聞いています。タイのコーチライセンスはAFC管轄ですが、将来的には育成年代のものも体系化していく予定だと言っていました。社会的、文化的に見ても、育成の仕組みは日本のように発展させようとしているのだと思います。
――発達段階による時間差は当然あるでしょうね。先日ある街クラブのコーチに取材したとき、Jクラブのコーチに興味深いコメントをされました。そのクラブはU12からU18までチームを保有していて、社会へとつながっているクラブの一つです。
「私たちは『こういう子はこう育った』という感覚的なデータをたくさん持っています。一方、Jのコーチは担当した学年に偏りがあったり、プロ引退後に即コーチになったり。要するに、社会までの道筋が見えない、逆算ができない経験の浅いコーチがジュニアを担当する状態が見え隠れしていません。そうすると当然、指導を受けた選手の価値観やプレーにも偏りが出たりするのではないでしょうか」。
現状、日本は体系的に構造的にどう育成したらいいかを資料として精査しようとしている段階ですが、そこに懸念があるのは「受け取ったコーチがその資料を頼りすぎるのではないか」ということです。一方で、現在のタイは細かく資料化されずに見える化がはかられていない分、感覚で将来までの段階を捉え、そのバランスをはかっている。
つまり、誰もが指導ができるような基本的な資料をもとにした安定的な指導を目指す一方で、現場判断を大事にする感覚的な指導も行う、この両方のバランス感覚を持った人が増えていかないといけない。日本はちょうどそのスタートラインに立ったところです。
保坂 タイだと経験や感覚による蓄積で体系的なものを作り出しているから確実性が担保されているわけではない。その現場コーチたちによる指導がそのクラブのカラーになっています。
バンコク・ユナイテッドのアカデミーの現状
――バンコク・ユナイテッドには(育成方針に関する資料などは)あるのですか? もしくは作られようとしているのですか?
保坂 作っている過程です。アカデミーダイレクターをはじめ、各監督でどういった選手を評価して上のカテゴリーに昇格させ、どういった練習をするのかを話しながら進めているような段階です。
――ちなみに、現状のバンコク・ユナイテッドはユースカテゴリーを終える段階でどういう選手を育てようとしているのか? 結局、そこからの逆算で育成するので。
保坂 ボールとの関係が高いレベルにあるのはもちろん、個性を持っていること。スペシャリストが昇格しているような流れです。私が監督を務めるU-13の目標は個々の超長所を育み、伸ばせるチームになることです。自分で個性が見つかっているのであれば磨く、見つかっていなければ個性や特徴を見つけることが大前提のチームづくりです。
――バンコク・ユナイテッドでは、トップにどのくらい選手を輩出したいのか? クラブ経営にかかわる部分ですし、将来的にトップはアカデミーでどのくらいの選手をまかないたいのか、具体的に目標は立てられているのですか?
保坂 今はその段階ではないのが本音です。ユースからトップへの昇格ですが、この人数という目標は決めていません。3年前からアカデミーに入れるセレクションも変わり、本腰が入った感じです。ここから全国セレクションを始めました。バンコク以外の子がその頃から入り、今のU-15が第1期生に当たります。彼らを何人上げたいかというと「なるべくあげたい」という思いはクラブとして持っています。
――全員が全国セレクションで選ばれた選手ですか?
保坂 今、私が指導しているU-13が第3期生なのですが、彼らは全員が全国セレクションの選手。たまにトライアルで練習参加もありますが、うちに入ることができるレベルには達していないです。
――1チーム=カテゴリー、何人ですか?
保坂 20人構成です。
――その子たちの学校状況はどんな感じですか? 故郷が遠い子もいるので、金銭的な事情なども教えていただけるのなら可能な範囲でお願いします。
保坂 クラブの親会社がアジアトップクラスの規模です。その会社がクラブを運営しているので、アカデミーの選手たちは学校の近くにある寮で生活しています。住居費、学費はすべてクラブが負担している状況です。
――では、アカデミーはエリートとしてプロを育成するための機関です。1シーズンごとに1カテゴリー内で入れ替えはあるのですか?
保坂 U-15以降に次のカテゴリーに進むタイミングから選手の入れ替えが始まります。全国セレクションによる選手選考など、アカデミー環境を本気で整え始めて3年目なのでまだまだです。第2、3期生がどこまで残れるかで変わってくると予想しています。
――よくヨーロッパではクラブと学校とが連携していますが、そういう形態は存在ありますか?
保坂 バンコク・ユナイテッドについてはまだです。うちのアカデミーダイレクターはプレミアなどでプレーしていたオーストラリア人なのですが、「いろいろ取り組みたい」と動いている最中です。
――プロクラブの話ですが、地元のクラブを応援する文化ですか?
保坂 全体的にまだファンベースがしっかりできていないクラブが多いです。うちは伸びてきているところですが、集客面ではブリーラムがすごいです。
>>3月特集の第四弾は「3月25日(水)」に配信予定!
【プロフィール】
保坂拓朗/「True Bangkok United」U-13監督
1982年生まれ。兵庫県西宮市出身。関西学院大学を卒業後、イングランド7部の「Harrow Borough FC」でプレー。その後、指導者としての道を歩む。イギリスで「ロンドンJFC」U-15、タイで「ブラジリアンサッカースクール・バンコク校」、スウェーデンで「Hittarp IK」U-15監督、「Kristianstad DFF」テクニカルコーチなどを経て、2017年よりタイの「True Bangkok United」U-13監督に就任。
木之下潤(文筆家/編集者)
1976年生まれ。福岡県出身。様々な媒体で企画からライティングまで幅広く制作を行い、「年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「グアルディオラ総論」(ソルメディア)などを編集・執筆。2013年より本格的にジュニアを中心に「スポーツ×教育×心身の成長」について取材研究し、1月からnoteにてジュニアサッカーマガジン「僕の仮説を公開します」をスタート。2019年より女子U-18のクラブカップ戦「XF CUP」(日本クラブユース女子サッカー大会U-18)のメディアディレクター ▼twitter/note
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