農業協同組合研究会は4月23日に東京・大手町のJAビルで2022年度(第17回)研究大会を開いた。テーマは「熱く語ろう JAはみどりの食料システム戦略にどう向き合うか」。前日に参議院本会議で全会一致で可決したみどり戦略の問題点を議論するとともに、今後の実践に向けてJAから地域農業戦略とその実践事例が報告された。
東京・大手町のJAビルで開かれた農業協同組合研究会の2022年度研究大会
自給率向上こそ温暖化対策
研究会では同会会長の谷口信和東大名誉教授が「自給率向上と地産地消こそみどり戦略の心髄」と報告した。
みどり戦略は農業の環境負荷低減をめざす。背景にはもちろん「気候危機」がある。谷口教授は「世界全体に関わる重大な問題。正面から突破することを考えなければあやうい。組合員の生存に関わるという意識が必要」と強調しつつつ、みどり戦略について知っている農業者はわずか3割弱、全会一致で可決したとはいえ「熟議が尽くされたといえないのが現実」と指摘した。
そのうえで今後、みどり戦略を実践していくうえでは、日本農業の課題を国民の食生活の変化も含めてトータルに考えるべきだとする。谷口教授の分析では、高齢化が進むなかでも畜産物の消費は増えており、大豆や小麦の需要も伸びて国産が追いついていない状況にある。
今の農政の基本は、少子高齢で国内市場は減少するため価格競争力にある産地をつくり輸出によって国内生産基盤を維持していこうという考え方だが、「輸出一辺倒でいいのか」と問いかけ、輸入とうもろこしの代替も含めて国内の飼料基盤を拡大することが必要で、今後の農業は耕畜連携の進展が鍵だとする。
それには長期的に需要が減少している米を飼料用米を中心とする飼料穀物の作付けに回すことが「もっとも理にかなっている」とする。
みどり戦略では「飼料用米」の位置づけが明確でないが、谷口教授はアジアモンスーン型農業の発展と地球温暖化対応での意義を強調。
いざという主食用に転換できる水田を維持することは食料安保の点から重要で、自国の風土にあった飼料基盤に基づく畜産の推進、ダム機能を持つ水田の意義などに着目すべきだという。
温暖化ガス排出抑制という観点からも、遠距離の海上輸送に依存する日本の畜産は環境負荷が大きく、飼料だけでなく農産物・食料の国産と地域内で消費することによる自給率の向上こそ、カーボンニュートラルを実現することになると強調した。
こうした取り組みを今後進めていくには「点」ではなく「地域農業の視点」が重要であり、関係者を束ねるJAなどの取り組みも重要と指摘した。
住民とともに JAはだのの取り組み
神奈川県のJAはだのの宮永均代表理事組合長は「都市住民を巻き込んだ食料・農業システムへの挑戦」を報告。
同JAは農に関わる人の裾野を広げ「食料自給率」を高めることをめざす。市民農民塾や体験農園を活用して気軽に参加できる農業体験の機会をより多く提供している。
環境に配慮した取り組みでは、ファーマーズマーケットでのCO2削減の取り組みのほか、環境保全型農業には蒸気による土壌消毒、温湯土壌消毒や、過剰施肥を抑えるための土壌診断、防除ではフェロモントラップなどに取り組んでいる。
また、耕畜連携を推進するため「ゆうきの里」づくりを進め、この取り組みへの消費者の理解を広げ地産地産へと発展させることをめざしている。
組合員へのマイバッグ持参運動の呼びかけ、直売店舗でのLED化も進めた。宮永組合長は「JAグループの活動にも環境配慮を織り込み、環境保全上の効果を最大限発揮できるようにしなければならない」と述べた。
耕畜連携を実践 JA鹿児島きもつき
鹿児島県のJA鹿児島きもつきの下小野田寛代表理事組合長は「有数の畜産・畑作地帯はみどり戦略にどう向き合うか」を報告した。
同JAは事業ウエイトが大きい畜産をいかに循環型にしていくかに取り組んでいる。管内に青刈飼料用生産組合や、牧草生産などと3つの堆肥センターを備える。また、JAのでんぷん工場から排出されるでんぷん粕を飼料として活用している。
JAの事業として農業経営を位置づけ、後継者育成と生産基盤を維持するため子牛生産と養豚でJAが法人を経営している。
地産地消に加え、フード事業をJAの事業とし位置づけ、農産加工を「地工」として事業展開。直売所、農家レストランのほか、地域の豚と福岡県のラー麦を活用して豚骨ラーメンを開発、発売している。
「地工」ではキリンビールとのコラボでGI登録を取得した「辺塚だいだい」を利用したリキュール「氷結」の開発にも取り組んだ。生産者に元気を与えもっと栽培を増やそうという動きが出てきたという。
今後はアジアへの輸出を視野に入れた加工品の開発と販売、耕畜連携のさらなる促進とスマート農業導入によるサツマイモ栽培体系への取り組みなどをめざす。
下小野田組合長は「農家の所得が確保できなければ農業の持続性はない。JAだけではなく県、市町村ともタッグを組む必要がある」と地域全体での取り組みが重要と述べた。
(研究会の詳報を近日掲載)
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