坂元裕二脚本のドラマや映画を観ていると、普段は心の奥のどこかに眠らせている“孤独”を思い出す。それはどこか、時間は巻き戻せないからと、教室の片隅に置いてきた切なさに似ている。オクラホマミキサーは楽しく踊れなかった。そうそう、YUIの「CHE.R.RY」は友達がよく歌っているのを見ていたのだった。思わず、不器用な彼ら・彼女らのどこかに自分の一部を重ねてしまう。
「きっと、誰しも」と言うのはよそう。第3話で「そういうものは、誰しもある」と言う悠日(仲野太賀)に対し、鈴之介(林遣都)が否定したように。坂元裕二の脚本は、そんな、他の誰でもない、無数の「私」の心に、優しく寄り添う。「みんなの」ではなく各々の「私にとっての特別」になり得る作品。それがこの、第2章突入を前に、なんだか凄いことになってきた、坂元裕二が脚本を手掛けるミステリアスコメディー『初恋の悪魔』(日本テレビ系)である。
さて、8月13日放送の第5話において、物語はだいぶ様相を変えた。第4話までは、主軸だけでいくと、可愛らしくて愛おしい、まるで妖精のような脇役たちの物語だったのだ。境川警察署に勤務する刑事や職員たちが、「自宅捜査会議」と称して警察署とは違う場所、主に鈴之介の自宅で謎を解く。時に「マーヤのヴェールを剥ぎとるんだ!」と事件当日同時刻の事件現場を仮想空間として出現させ、その中を悠日たち4人がトコトコと歩き、探検する。全ては「好きな人の笑顔が見たいから」。
好きになったきっかけも可愛い。「僕の話を聞いてくれた!」と言う琉夏(柄本佑)、「3日ぶりの飯をくれた!」と言う星砂(松岡茉優)。恋と殺意の違いがよく分からない鈴之介。全てを冷笑でやり過ごす刑事たちが集う、警察署の中心・刑事課の隅っこでひたむきに頑張る渚(佐久間由衣)を、警察署のそれぞれの部署の隅っこから覗き見る登場人物たちが、陰ながら彼女の手助けをし、気づかれないようにそっとメモを置いていなくなる。心の優しい妖精たちのアシストをするのは、名優・田中裕子演じる、元監察医・小洗杏月(「こあらいあずき」、つまり、並び変えると名前の中に妖怪「小豆洗い」がいたりもする!)。
そんな物語のはずだった。でも、視点を少し変えれば、シビアな現実が見え隠れする。有名人優先で放置された少女(吉田空)の死(第1話)。悲鳴を聞いたら我先にと各々の部屋に籠もり、誰も助けにいかない団地の住民たちによってできあがる密室(第2話)。老後の資金のため、長年働いたスーパーの金を横領するしかなかった女性(松金よね子)の人生(第3話)。
第5話の大きな変化は、「隅に立って、中心に置かれた物語を見守ることしかできなかったはずの彼ら」、いわば「観客/視聴者側の人間」だった彼らの内部にこそ、この物語の中心、つまり事件そのものがあったことが明らかになったことだ。そしてその時、物語は思わぬ飛躍を見せ、魔法のような一場面を見せた。孤独だった幼少期の鈴之介(吉田奏佑)を、今の鈴之介と、今の鈴之介を形成するに至った仲間たち、つまり彼の初めての「友達」となった悠日と琉夏と星砂と、椿静枝(山口果林)という1人の女性の言葉が包み込む。その瞬間を、彼の夢の中に描いたのである。
それは、星砂に導かれた悠日が、「出ることができなかった電話に出るフリをすること」を通して、兄・朝陽(毎熊克哉)の死に対して抱え続けていた後悔とちゃんと向き合えた第2話にも通じる。本作はフィクションを通して、現実世界を生きる我々が抗うことのできない「時間の不可逆性」に抗い続ける。過去の蓄積によって形成された現在の彼らを、やり直しの効かない過去の痛みごと優しくそっと抱きしめようとする。
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