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テンセント、ゲームで世界を目指す鍵は「開発者、消費者との関係」 - 日経クロストレンド

日本で10年にわたってテンセントのゲーム事業を統括してきたシン・ジュノ氏に話を聞く後編。テンセントが提携する際に重視するポイントや、メタバースへの対応方針などを聞いた。

Tencent Japan合同会社支社長のシン・ジュノ氏

Tencent Japan合同会社支社長のシン・ジュノ氏

▼前編はこちら テンセントのゲーム事業 「日本の開発者と世界市場を相手にする」

──今後、ゲームを制作していくうえでテンセントが重要なポイントと考える点は何ですか。

シン・ジュノ氏(以下、シン) 1つはユーザーの可処分時間をどう確保するかでしょう。ユーザーの可処分所得ももちろん大事ですが、どんなユーザーも1日で使える時間は最大24時間しかない。その中でどれだけゲームをプレーしてもらえるか……。その意味で、ゲームをデザインする際、可処分時間をどう確保するかを考えることは、かなり重要なポイントだと思います。

クリエイティブには口を出さない

 もう1つ。日本のパートナーとの関係でいえば、私たちが制作の過程に深入りしないこと、いい意味でも悪い意味でも、開発に関して口を出さないことでしょう。クリエイティブにはなるべく口を出さない。これはテンセントの方針です。テンセントが提供するのは、ビジネスモデルやパブリッシングの機能、技術的な支援など、パートナー企業が欲しがっているものにとどめます。仮に出資をしたからといって、テンセントがパートナー企業よりも偉いという姿勢は、絶対に取りません。そういう意味では、互いに欲しいものを提供し合う補完的な関係を構築できるかが重要だと思います。

──中国では、数年前からゲーム産業に対する行政当局の取り締まりが厳しくなりました。例えば、当局による個別のゲームの審査が止まってしまって、予定通りにゲームタイトルを発売するのもままならなくなった。このままでは中国国内のゲーム市場はこれまでのような急成長が期待できなくなる可能性が高い。テンセントが大型M&Aを連打しているのは、こうした国内事情が背景にあるのですか。

シン 中国の市場に変化が起きたから、それを踏まえてグローバル市場の開拓を強化し始めたというわけではありません。どちらかというと、中国国内市場に変化が生じるよりも先に動いていて正解だった、という表現が正しいかと思います。

この10年間、やっていることに変わりはない

 私は今、テンセントで働き始めて10年目です。その間ずっと、日本と欧州の事業開発を統括していますが、10年間やっていることは基本的に変わりません。日本のパートナー企業との提携がすべて順調に進んでいるわけではありませんけれど、どの企業とも、長期的な関係を構築しようと意識してきました。仮に中国市場の成長が鈍化してきたから日本市場を開拓しよう、という姿勢で日本に入ってきたら、日本企業に相手にされないでしょう。

 実際、私たちは日本のパートナーから「テンセントは顔ぶれが変わらない」「言っていることがぶれない」という言葉をいただきます。これは私にとってものすごく大きな褒め言葉です。次もまたやろうと言ってくれているわけですから。長期的関係を重視するというのは、テンセントのフィロソフィーなんです。

 長期の関係を続ける中で、ゲーム市場の主流のプラットフォームは変わっています。昔はパソコン、コンソールゲーム、今はモバイルで、将来はVR(仮想現実)などが主流になるかもしれません。ただ、プラットフォームが変わろうが、新しい技術が出ようが、その中で一番面白いゲームを開発したパートナーと組んで、グローバル市場を相手に1を100に拡大するお手伝いをしていくというテンセントの方針にぶれはありません。

 ただ、質問の意図はよく分かります。中国のゲーム市場の現状は、報道されている内容通りで、成長が少し鈍いことは事実です。その意味ではグローバル市場の開拓はテンセントの成長にとって重要になります。

長い目で見ればゲーム産業は確実に拡大する

 とはいえ、長い目で見れば、ゲーム産業の市場規模は世界中で拡大していくと思います。中国も含めて、です。なぜなら今、生活の中でゲームが占める割合はどんどん増えている。昔は子供がゲームをすると親から怒られたりもしましたが、最近では子供はもちろん、子供時代からずっとゲームで遊んでいる大人も、長い時間、ゲームを楽しむようになった。ゲームは、人々の生活や、家族のコミュニケーションに欠かせない文化になり、可処分時間の多くを獲得するようになっている。

 こうしてゲームが私たちの生活の中で欠かせない存在になっていくのであれば、好不調の波はあるでしょうけれど、ゲーム産業の未来は明るいと思います。これからも新しい技術、新しいプラットフォーム、新しいIP(知的財産)、新しい遊び方が出てきて、市場はますます拡大していくのではないでしょうか。

──「メタバース」と呼ばれている領域にテンセントとして興味はありますか?

シン テンセントのゲーム事業のトップであるスティーブン・マーという、私の“スーパーボス”に当たる人物が、いくつかのインタビューで似た質問に答えています。その回答を読む限り、テンセントとしてはメタバースという単語にとらわれないと思っています。

メタバースという言葉にはとらわれない

 テンセントはゲーム事業を今日まで20年間やってきました。その経験から言えば、メタバースという新しい言葉に対応した新しい何かを今から探すという発想は、全く持っていないと思います。新しい技術が登場したらその真価を読み解き、その技術を生かした一番ふさわしいゲームを開発して、強いIPをぽんとのせる。このやり方が一番爆発すると思います。メタバースという言葉が出てきたから何か対応するというわけではないんですね。

 例えばテンセントは直近、XRという事業を立ち上げ、そこでハードウエア、ソフトウエア、ミドルウエア、流通を含めたすべてのプロセスにおいて研究&開発を進めています。いつ、何が発表できるかというのは現時点では分かりませんが、新しい技術については、私たちは常に研究をしていると断言できます。「メタバース」という単語にとらわれず、次の時代に求められる自前の技術やゲームプレーを、今から研究&開発して準備しておくというスタンスですね。

──もう1つ。今後日本でIPをピックアップして共同開発してグローバルに展開していくとき、ゲーム以外のIPにも興味を示すことはあり得ますか。

シン あり得ます。資本業務提携を発表したKADOKAWAさんとは、まずは一緒にアニメを展開します。アニメが成功したら、そのIPを使ってモバイルゲーム化にも挑戦することになるでしょう。元がライトノベルズなのか、アニメなのか、ゲームなのかは、あまりこだわらなくてよいと思っています。

「今後も日本市場に関わり続けたい」と話すシン・ジュノ氏

「今後も日本市場に関わり続けたい」と話すシン・ジュノ氏

ARPUは重視せず、MAUを重視する

 IPを使ってグローバルにビジネスを展開していくうえで最も重要なのは、消費者の可処分時間を獲得することです。そのために最も大事なのは、とにかく長くプレーしてもらうことです。

 例えばテンセントでは、他社の多くがKPI(重要業績評価指標)として重視するARPU(アープ、Average Revenue Per User、1ユーザー当たりの平均売り上げ)をそれほど重視しません。課金を強化して短期的に収益を上げようという発想に乏しいとも言えます。

 逆にテンセントが重視するのは、DAU(Daily Active Users、1日当たりのアクティブユーザー数)やMAU(Monthely Active Users、毎月平均のアクティブユーザー数)。つまり、ユーザーの定着率です。なるべく多くのユーザーに、テンセントのゲームをたくさんプレーしてもらいたい。IPによってはゲームでもアニメでもいい。ユーザーに長くそのIPに接していてほしい。可処分時間をそのIPのために使ってほしいんです。

──新型コロナウイルス感染症が拡大してから、日本のゲーム産業の中で変化はありましたか。

シン 例えば、欧米だとゲームを作るうえで英語の重要性が上がりました。昔のテンセントは欧州発で開発する場合、90%のゲームを英国で開発していました。ですが今は英国の割合は3割に過ぎません。ノルウェーなど他国に開発チームが分散しました。その結果、グローバルチームになって、コミュニケーションを図るために英語の重要性が上がったんです。この傾向はテンセントだけでなく、ゲーム産業全体に言えることです。あと、オンライン中心で開発を進めるため、プロダクトマネジメントの重要性も上がりました。この2つの点で今、日本企業の多くが苦しんでいますね。

──どういうことでしょう?

シン 円安が進行して日本企業が海外の人を雇いにくくなった面があります。とはいえ、ゲーム産業の中では日本企業も給料を引き上げていますから、海外から人が集まらないのはどちらかというと英語の問題ですよね。英語でコミュニケーションを取れないから、海外の優秀な人材が日本企業で仕事しようとしなくなる、というわけです。プロダクトマネジメントも、グローバルチームを動かした経験を豊富に持つ人材が不足している。

──そこでテンセントが果たせる役割はあるのでしょうか。

シン 長期的な視点を持って、検討していきたいと思っています。

シン・ジュノ(Shin Juno)氏
Tencent Japan合同会社支社長
Tencent Games Vice General Manager

2008年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ入社)。10年8月NCsoft Associate Manager。11年8月T.S.Investment Investment Manager。13年1月Tencent Games Assistant General Manager、日本と欧州のゲーム関連事業開発(Business Development)を統括。13年1月Tencent Japan合同会社支社長(現任)、16年3月Aiming社外取締役、20年1月プラチナゲームズ社外取締役、20年6月マーベラス取締役、21年11月Wake Up Interactive Limited社外取締役、22年9月Tencent Games Vice General Manager(現任)

(写真/稲垣純也)


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