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【ザ・インタビュー】謎解きの鍵はノーベル賞研究 作家・斉藤詠一さん著『一千億のif』 - 産経ニュース

「小説はフィクションですけど、事実を残していけたら」。大叔父の軍歴をもとに構想を練った斉藤詠一さん(鴨志田拓海撮影)

祖父の弟2人の軍歴を調べた結果、生じた謎が物語のもとになった。セピア色の書類に記録された軍歴には手書きの部分もあるが、「戦死」の文字は判子とみられる。

「2人の記録は、僕が調べなければ僕の子供の世代には伝わらない。生きていれば違う人生があった。それを言い出したら、みんなif(イフ)(もしも)」

江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作『到達不能極』や2作目の長編『クメールの瞳』は、先の大戦や戊辰戦争と現代が交錯するミステリー。その作風を今作『一千億のif』も引き継いでおり、特攻要員が戦地から持ち帰った「大事なもの」を巡る争奪戦が繰り広げられる。

謎解きの鍵となるのは、3日にノーベル医学・生理学賞の受賞が決まったドイツのスバンテ・ペーボ博士の古人類に関する研究成果だ。

宝探しの要素もある。ただ、物語を通じて伝えたいのは、戦争で命を落とした人々を忘れないでほしいという願いだ。「エンターテインメントではあるが、普遍的な思いを伝えられたら」と話す。

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物語は昭和20年7月、インド洋上での日英の戦闘シーンで幕を開けた後、現代のキャンパスへと舞台が移る。

大学3年の坂堂雄基は、あり得たかもしれない「歴史のif」を研究する仮想歴史学研究室に所属。曽祖父の徳之介が遺(のこ)した海軍の資料の調査に着手する。雄基が生まれる前に徳之介は亡くなり、その弟の浩正は戦死していた。資料のある本家で、認知症の曽祖母が「戦地から持ち帰った、大事なもの」などと口にしたことが引き金となり、驚くべき秘密が明らかになる。

明治時代に洋上で消息を絶った巡洋艦「畝傍(うねび)」との関係や、インド洋に浮かぶ現代の〝禁断の島〟。謎が謎を呼ぶ展開は虚実がない交ぜとなっており、空想の世界が広がっていく。

構想のもとになった祖父の弟2人のうち、整備兵だった弟は乗っていた小型空母が帰投中に八丈島沖で沈められて戦死していた。もう一人は昭和19年11月に機関兵を命じられた後、終戦の翌月に本籍地で亡くなるまでの記録がない。「いつ帰ってきたかも分からない。空白期間が気になった」

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自身は大学で物理を学んだ。作品に「自分の味を出したい」と、最新の科学技術の話題を取り入れている。デビュー作では、人工知能(AI)の能力が人類全体を超える転換点「シンギュラリティー」。今作でも、現在注目を集めている最先端の技術が物語のヤマ場を盛り上げる。

また、ペーボ博士がDNAを解析したネアンデルタール人やデニソワ人のような「ロマンのある存在」に興味があり、今作のほか短編「間氷期」(平成30年)にも生かしていた。漫画家では藤子・F・不二雄が好きだという。

「大人のための『ドラえもん』のようなものが書きたい。アクションがありロマンスがあり、割にハッピーに終わる。面白かった、でも何かちょっと考えるところがある」。戦没者のifに思いを馳(は)せながら読みたい。

さいとう・えいいち 昭和48年、東京都生まれ。千葉大理学部卒。自然保護NGOや精密機器メーカーに勤めながら作家を目指す。平成30年、『到達不能極』で江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。著書に『クメールの瞳』『レーテーの大河』。

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