2022年9月1日から3日間、食に関する課題解決や食の未来をテーマに開催された「SKS JAPAN 2022」。第5回目を迎えた今回、初めて開催されたのが「発酵」をテーマにしたセッションだ。「発酵が生み出すRegenerative Future Food」と「世界のフードテック投資家の注目ポイントとは?」と題した2つの講演から紹介していく。
「発酵が生み出すRegenerative Future Food」でモデレーターを務めたフードテックエバンジェリストの外村仁氏は、世界的に発酵の文化や技術が注目されているのにもかかわらず、昔から発酵文化を持つ日本の存在感が皆無であることを問題提起した。
「発酵食品は日本だけでもたくさんの種類があるが、文化人類学的な発酵の本はあるものの、科学的なアプローチの本はほとんどない。また、海外で日本発の発酵本は知られておらず、例えば米国で最も流行している発酵の本は『Noma(ノーマ)』(『世界一のレストラン』とも呼ばれるデンマークのレストラン)のシェフが書いたもので、それに触発されてインド人が納豆を作るなどの動きも出ている。そこに日本人が入っていない事実をまず知ってほしい」(外村氏)
日本酒技術を用いた新たな酒「クラフトサケ」とは?
外村氏は発酵技術を用いた新しい取り組みとして、稲とアガベ(秋田県男鹿市)を紹介した。同社は、旧男鹿駅の駅舎跡地を醸造所にして2021年秋から酒造りをしている。稲とアガベCEO(最高経営責任者)の岡住修兵氏は、「日本酒の技術をベースにした『クラフトサケ』という酒を造っている」と語る。
現在、日本では新規で日本酒(清酒)の製造免許が取得できない。そのため、日本酒造りの技術をベースにしながら、副原料を入れることで従来の日本酒とは法的に一線を画し、かつ新しい味わいを目指したのがクラフトサケだ。
そんな稲とアガベの酒造りの特徴は、「米を磨かず、その代わりに田んぼを磨こう、技術を磨こうという酒造りを目指している」と岡住氏は語る。
「日本酒は米を磨けば磨くほど価値が上がると思われている半面、米を削ることで米ぬかや米粉がたくさん出てしまう。磨いた残りの米粉も、酒を絞ったときに出てくる酒かすも栄養豊富な素材だが、実需につながらないため、ほとんど有効活用されていない。食糧危機が叫ばれる昨今、米の一部分しか使わないぜいたくな酒造りが、100年後、200年後も残っていくのかに疑問を感じ、それに対処する形で『磨かない酒造り』にチャレンジしている」(岡住氏)
一般的な日本酒の精米歩合(米を磨く割合)は本醸造酒で70%以下、大吟醸酒の場合は50%以下に定められているため、“良い酒”ほど米の多くが削られてしまっている。「我々は食用米と同じく米を10%だけ削り、排出された米ぬかは田んぼに戻すため、基本的に米を全部使って酒造りをしている」(岡住氏)という。
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