Noah Berger/AWS/Handout via REUTERS
今、日本の通信キャリアと、クラウド業界トップシェアの事業者であるAWS(アマゾン・ウェブサービス)が急速に接近している。
5Gが一般化し、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルといった携帯電話事業者(通信キャリア)はより厳しい時代を迎えている。
通信インフラが高度化し、5G網を構築するコストがかさむようになっているにも関わらず、通信費値下げの圧力は強い。結果、コンシューマ向けの事業について、以前ほどは利益が上がりにくくなっている。各社が決算の場で「非通信領域の拡充を」とコメントするようになってきたことには、こうした背景がある。
一方で、インフラの高度化・ビジネス環境の再整備は待ったなしの課題でもある。
そこをビジネスチャンスとして、通信キャリアとの関係を強化しようとしているのが、AWSというわけだ。
AWSのチーフテクノロジストで、エッジコンピューティングと通信関連事業のCTO(最高技術責任者)を務めるイシュワール・パールカー(Ishwar Parulkar)氏に、通信キャリアとのビジネスを聞いた。
NTTドコモが「クラウド化」で電力を7割削減へ
AWSのエッジコンピューティングと通信関連事業のCTO(最高技術責任者)を務めるイシュワール・パールカー(Ishwar Parulkar)氏。
撮影:西田宗千佳
NTTグループは30万人の社員を抱える、日本最大の通信事業グループだ。グループ全体での年間消費電力は2015年時点で87.4億kWhと、1社で東京都全体の消費量の4分の1、日本全体の発電量の1%に達する。(同社2015年度資料より)
傘下のNTTドコモの消費する電力量は、年間約30.4億kWh(2019年)に達しており、NTTグループで最も電気を消費する存在だ。NTTグループの省電力化・CO2排出量削減のカギは、NTTドコモが握っていると言っても過言ではない。
2022年9月、NTTドコモとNECは共同で「5Gネットワークの電力消費量を約7割削減することに成功した」と発表した。これは、ドコモの消費電力削減に大きく寄与する。
ただ、ドコモの電力削減はまだ「現実のもの」にはなっていない。この発表は正確には「新しいネットワークの導入によって電力消費量を約7割削減できる、という実証実験に成功した」ものだからだ。
もちろん実証実験とはいえ、その価値は大きい。AWSのパールカーCTOは、「この実証実験はAWSにとっても極めて大きな意味がある」と説明する。消費電力を削減するためのインフラを構築する仕組みには、AWSのクラウド(計算資源)が投入されたからだ。
後述する理由から、筆者はNTTドコモは今後、消費電力削減の目的から、5Gネットワーク内にAWSを採用していく可能性が高いと見ている。
鍵を握る「クラウド化」と「Graviton」
ドコモの全社を挙げた電力削減のポイントは、主に2つある。
1つ目は、従来のシステムでは全てがNTTドコモ内に置かれていた設備を、一部AWSのクラウド上で動かすことに成功したこと。そして2つ目が、AWS側で「Graviton」というエネルギー効率のいいプロセッサーを使ったことだ。
NTTドコモとNECの実験のイメージ図。一部インフラをAWSのクラウドに移植することで消費電力を大幅に削減した。
出典:NECのニュースリリースより
GravitonシリーズはAWSが独自開発したARMアーキテクチャベースのクラウド用プロセッサーで、初代は2018年に登場した。その後、2019年に「Graviton 2」、2021年に「Graviton 3」が発表された。先週、ラスベガスで開催されたAWSの年次イベント「re:invent 2022」では、その高性能版である「Graviton 3E」が発表されている。
従来のGraviton3では、1ワットあたりの性能がインテル系の命令を使う半導体に比べて60%高いと説明している。
出典:AWS「re:invent 2022」の基調講演より
「re:invent 2022」ではさらにパワフルな「Graviton 3E」が発表された。
出典:AWS「re:invent 2022」の基調講演より
NTTドコモとNECによる実験では、1つ前の世代にあたるGraviton 2が使われている。
既存のシステムをAWSのGraviton 2ベースのクラウド上で動かした。これによって、エネルギー消費効率を高め、「電力消費量7割削減」という結果を実現した。
「一般論で言えば、システムをAWSのようなクラウドに移管することで、消費電力は7割から8割改善します」とパールカーCTOは話す。
AWSは2025年までに再生可能エネルギー利用率を100%に移行すると公表している。
撮影:西田宗千佳
クラウド移行することは、消費電力だけではなく、脱炭素の意味でも効果が大きい、というのがAWSの立場だ。
AWS自体が「2025年までに自社が運営するクラウドインフラで利用する電力を100%再生可能エネルギーとする」と発表しているため、AWSへの移行はCO2削減にインパクトがあるとする。
「その上で、NTTドコモとNECは、5Gネットワークの高い負荷に耐えられるのかどうかの検証を行いました。100万人の加入者がいる設定でのテストを行い、十分以上の処理をこなした上で、さらに消費電力が下がる、と結論づけたのです」(パールカーCTO)
楽天も自社技術を「クラウド化」
モバイルネットワークのネットワーク設備を記者に披露する楽天の三木谷浩史会長兼社長(2019年)
REUTERS/Kim Kyung-hoon
同じようなアプローチで、AWSとの連携を進めているのが、楽天モバイルだ。
楽天モバイルは当初から、携帯電話ネットワーク専用の機器をできる限り使用せず、汎用のコンピューター上に、仮想化技術を使って携帯電話ネットワークを構築したことをウリにしてきた。狙いは、携帯電話ネットワークのうち、基地局以外の部分を低コストかつ柔軟なものにする、ということだ。
独自性の高い先進的なネットワークであるので、その技術を外部に販売する「楽天シンフォニー」という会社を設立、ビジネス展開を積極的に進めている。
基本的に楽天は自社内にハードウェアを設置する「オンプレミス型」のインフラを採用してきた。だが、2022年9月にAWSと提携し、AWSのクラウド上に「楽天シンフォニー」の5Gインフラを構築する技術を発表した。
パールカーCTOは「彼らにとってはこれも1つの選択肢。オンプレと同時にクラウドも用意し、顧客側での選択の幅を増やしたということ」と説明する。
「クラウドは、“コスト”と“持続可能なエネルギー”のすべてにおいて非常に魅力的なものです。ただ、市場や顧客の側で、クラウドがどのように活用されるかは未知数。私たちの哲学は、どのような顧客に対しても、AWSを5Gネットワークを動かすのに最適な場所にすることです」(パールカーCTO)
本丸「無線基地局」に消費電力削減を武器に攻め込むAWS
ただ、この実験による「7割削減」は入口に過ぎない。
NTTドコモとNECによる実験は、「5Gコアネットワーク」と呼ばれるインフラ部分についてのものだ。通信キャリアの消費電力の大半は、いわゆる「携帯電話基地局」が消費している。
「携帯電話ネットワークでの消費電力は、約60%から70%が無線アクセスネットワークで消費されています。そこで我々は、Gravitonチップを搭載した小型の基地局サーバーの構築を進めています。この技術で通信業界を変えられると信じています」(パールカーCTO)
AWSはこの先、世界で磨かれた消費電力削減を武器に、さらに通信キャリアの根幹の設備へと入っていこうとしているのだ。
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